女性が主体的に避妊できる環境を整えることの意味

世界的に意識の高まる「性教育」。日本でも、若い世代が性犯罪に巻き込まれないように生命の安全教育を推進しています。今回は、自分の心身に関心を持ち自分らしく生きることができるために、女性が主体的に避妊できる環境を整えることの必要性について考えます。

一般社団法人 ソウレッジ(Sowledge)
代表 鶴田 七瀬さん

「性別にまつわる平等」について考えるきっかけ

私は、痴漢にあっても「女の子が1人で出かけるのは危ないからやめなさい」と言われ、何か意見を出したら「女のくせに生意気」と言われてきました。その度に違和感を覚えつつも、一方で「ジェンダー平等(男女平等)をめざそう」と言われてもぴんとこないと学生時代は感じていました。しかし、大学時代の親友から「友人から性被害にあった時に、古いコンドームを使用され妊娠の不安を感じていた」と打ち明けられた経験と、同じ大学の学生が出産した乳児を遺棄して逮捕されたことなどをきっかけに、「性別にまつわる平等」について考えるようになりました。

性行為に付随するリスクの性別による偏り

イギリスやデンマークのように、避妊具を安価や無償で手に入れられる国では、中高生になったら、コンドーム、低用量ピル、ミレーナ、避妊シール(日本にはない)などの中から、自分で考えて避妊方法を決めます。避妊できなかった場合などは、緊急避妊薬を飲むという方法でも望まない妊娠を高確率で避けることができます。もし、予期せぬ妊娠をしてもスウェーデンやイギリスでは中絶は無償です。

避妊や中絶を容易にできる環境は、性行為などの「男女で同じ行為」をした時のリスクが片方の性別に偏りにくい状態に繋がります。でも、今の日本では、性行為に付随するリスクの性別による偏りが大きくある状況です。

望まない妊娠をした場合、「中絶するか、出産して育てるか、誰かに育ててもらうか」を選ばなければなりません。そして中絶または出産をするとしたら、数十万円以上のお金をどうにかして用意しなければならないという課題に女性は直面せざるをえません。そして、上記の全ての選択肢に批判される可能性や心身の健康を脅かす可能性があります。

予期せぬ妊娠・中絶・出産が女性に与える影響

では、望まない妊娠のリスクは、女性の人生にどのような影響を与えるのでしょうか。人工妊娠中絶をした後、心の病気になり学校生活や仕事を以前と変わりなくすることが難しくなります。中絶後の数年〜数十年も人生に影響をきたすことがあります。

また日本では望まない妊娠をした学生の30%以上が退学をしています(平成30年度文部科学省「公立高等学校における妊娠を理由とした退学に係る実態調査」より)。退学者の中には、学校側に退学を促された人もいます。その結果、高校の卒業や大学進学をはじめ、自らのやりたかったことや職業を諦めてしまう女性もいます。妊娠した生徒に退学を促すことが学校で常態化していたため、「妊娠を理由に退学を促してはならない」という旨の通達を平成30年に文部科学省が出しています。

生まれた時の性のために、自分の人生のやりたいことを諦めないでいい社会

女性主体の避妊ができる環境を整えることは、そのような「自分の望む未来を諦めずにめざしていける女性」を増やすことにつながります。

身体の仕組みは変えられなくても、制度や文化で負担をマシにしていくことはできます。「マシ」の積み重ねが、「生まれた時の性」のために自分のやりたいことを諦めないでいい「公平な社会」をつくるのではないか、と今の私は考えています。

※このコラムでは、社会制度の影響を「本人の性自認に関係なく受ける」身体的性についての話をする上で、男性・女性という表現を用いています。

一般社団法人 ソウレッジ(Sowledge)

代表 鶴田 七瀬さん

性教育を積極的に行う国の教育・医療などの施設を30ヶ所以上訪問。帰国後「性教育の最初の一歩を届ける」ことをめざし、ソウレッジを設立。2021年「Forbes-日本発「世界を変える30歳未満」30人-」受賞。

2022年7月号 コンテンツ

P.2-4

P.5

P.6-7

P.8

P.9

P.10-11

表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
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