社会の変化とともに、つながりがいっそう希薄になる中で孤立や生きづらさを抱える若者も少なくありません。誰もが尊重され、自分らしく生きる社会を実現するために、今、私たちに求められていることは何でしょうか。子ども・若者支援に取り組む、今井紀明さんにお話を伺いました。

声を受け止め、支援へつなぐ

ー現在の活動を始めたきっかけを教えてください。

 活動の背景には自分自身の経験があります。私が高校1年生の時に起きた9.11(アメリカ同時多発テロ事件)をきっかけに、紛争や貧困の中で、理不尽な状況に置かれている海外の子どもたちの現実を知り、強い問題意識を持つようになりました。その状況を変えたいという思いから子ども支援の活動を始めましたが、19歳になる年にイラク人質事件に巻き込まれ、帰国後に大きなバッシングを受けました。PTSD(※1)やパニック障害を経験し、4〜5年ほど苦しい時期が続きましたが、家族や友人、高校の恩師に支えられながら、少しずつ社会生活を取り戻していきました。その後、海外支援のボランティア活動等に参加し活動を続ける中で、日本の若者の状況にも危機感を抱くようになりました。海外では紛争や貧困など、目に見えやすい困難がある一方、日本では一見すると見えにくいものの、生きづらさや孤立を抱え、誰にも頼れずにいる若者が増えていると感じたからです。令和7(2025)年の小中高生の自死者数は、昭和55(1980)年以降、過去最多となっています。そのことからも、深い孤立や生きづらさを抱えていることがうかがえます。行政や企業だけでは支援が届きにくい領域がある中で、つながりを社会の中につくり、孤立させないセーフティネットを広げるためにNPO法人D×P(ディーピー。以下「D×P」という)を設立し、活動を続けています。

(※1)PTSD(心的外傷後ストレス障害)死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢を見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態。

ー具体的にどのような取組をおこなっていますか。

 D×Pでは、13歳から25歳までの子ども・若者を対象に、オンライン相談事業「ユキサキチャット」や、大阪・ミナミで「ユースセンター」の運営などをしています。

 自死やいじめに関する相談窓口は、これまでも行政などによって整備されてきましたが、生活や福祉に関わる困りごとをオンラインで気軽に相談でき、その後の支援につなげる仕組みは、まだ十分とは言えない状況です。こうした中、「ユキサキチャット」は、若者の声を受け止め、必要な支援へとつなぐ重要な役割を担っています。相談を起点に、進学や就職、福祉制度の利用につなげ、生活の安定に向けて伴走しています。 

 一方で、繁華街には孤立した状態にある若者や、支援を必要としていても自ら相談することが難しい若者が多くいます。「ユースセンター」では、そうした若者が安心して立ち寄れる居場所をつくり、関係を築いていくことを軸としています。「相談するための場所」ではなく、友人と立ち寄ったり、一人で過ごすこともできる“居場所”として運営しています。食事の提供などを通して交流し、居場所を求める若者が、自然な形で相談につながる環境を整えています。「関わり」を続ける中で、住まいやお金、妊娠、性被害といった様々な問題が少しずつ見えてきます。

性別や環境が生む孤立と生きづらさ

ー若者の生きづらさの背景にある社会的な課題について教えてください。

 まず現場で感じるのは、「つながり」が本当に少なくなっているということです。核家族化が進み、親戚や近所、地域との関係も希薄になる中で、安心して過ごせる居場所や人とのつながりを持つ機会が減っています。子どもたちを取り巻く環境が変化する中で、家庭や学校で困難を抱えた場合に、支えとなる場所が少なく孤立しやすい状況になっているのです。

 「ユキサキチャット」では、相談者の約7割が女性です。寄せられる相談には、不登校や虐待、家庭内の不和、経済的困窮などが重なっているケースも多く、相談につながる女性の中には、働いていても非正規雇用などの働き方により、経済的に不安定な状況に置かれている人も少なくありません。また、経済的な余裕がない中では、生理用品や化粧品など日々の生活に必要な物品の購入も大きな負担になることがあります。こうした状況も踏まえ、食糧支援の際に生理用品も届けるなど、一人ひとりの状況に応じた支援を行っています。

 「ユースセンター」には、様々な困難を抱える若者が訪れます。「夜の仕事」に従事せざるを得ない状況に置かれている若年女性や、住まいを失い生活基盤が不安定な若者など、抱える課題は性別や環境によって異なります。課題の中で共通して見えてくるのは、相談することへの心理的ハードルの高さです。特に男の子の場合は、「男は強くあるべきで、人に弱さを見せてはいけない」といった「男らしさ」に縛られ、相談することに強い抵抗を持つケースがあります。固定的な性別役割分担意識も、相談のしづらさや生きづらさにつながっていると感じます。

 また、D×Pでは、妊娠や性に関する相談にも対応していますが、性教育についても、社会全体としての取組が不足していると感じます。一因として、SRHR(※2)の考え方が、まだ十分に広がっていないということが挙げられます。「身体を大切にすること」「相手を尊重すること」「自分らしさを知ること」も含めて、性教育というものは本来幅広いものです。自分自身を大切にし、他者との関係を築いていくためにも、こうした学びが広がっていくことが重要だと考えます。 

(※2)SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)性と生殖に関する健康と権利。自分の身体や性や生殖について、誰もが十分な情報を得られ、自分の望むものを選んで決められること。

支援物資を箱詰めする様子。若者とのつながりを支える取組の一つです。

「ユースセンター」の様子。交流を通じて安心して過ごせる居場所となっています。

未来に希望を持てる社会に向けて

ー人ひとりが尊重される社会のために、私たちにできることを教えてください。

 私たちができることは、先入観で人を見ず一人ひとりの声に耳を傾けることではないでしょうか。近年は趣味や嗜好、働き方や生き方も多様化しています。かつてのように多くの人が同じものを共有する時代でなくなっているからこそ、「若者はこういうもの」「女性だから」「男性だから」と一括りにするのではなく、その人自身に関心を持ち、理解しようとする姿勢が求められています。社会が変化する中で、安心して過ごせる環境や自分の気持ちを受け止めてくれる人とのつながりは欠かせません。

 D×Pでは、否定せず関わる姿勢を大切にしています。本人が自分のタイミングで一歩踏み出せるよう寄り添いながら関わっています。人にはそれぞれ異なるペースやタイミングがあります。答えをすぐ一つに決めつけるのではなく、その人に合った歩みを支えていくことが大切です。安心して信頼できる関係の中でこそ、自分の可能性や選択肢に気づき、本来の力を発揮できるのだと思います。一人ひとりの違いや生き方が尊重され、希望を持って生きられる社会になることを願っています。

今井 紀明さん
(認定NPO法人D×P 理事長)

昭和60(1985)年札幌生まれ。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後友人らに支えられ復帰。偶然、中退・不登校を経験した10代と出会う。親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、平成24(2012)年にNPO法人D×Pを設立。平成27(2015)年に認定NPO法人としての認定を取得。

認定NPO法人D×P ホームページ

2026年8月号 コンテンツ

P.2-3

P.4

P.5

P.6

P.7

P.8-9

P.10-11

表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
クレオ大阪ホームページ