(京都橘大学総合心理学部准教授、臨床心理士・公認心理師) 平成7(1995)年、日本初の男性相談『男』悩みのホットラインを開設し、各地の自治体での男性相談事業にも携わる。平成23(2011)年~男性専用のカウンセリングオフィス天満橋代表。令和元(2019)年~一般社団法人日本男性相談フォーラム理事。主著書『男性は何をどう悩むのか 男性専用相談窓口から見る心理と支援』(平成30(2018)年 ミネルヴァ書房)
私が以前、乳幼児を育てている父母に尋ねた意識調査では、「子育てで父親は母親にはかなわないと思う」という設問に対し、8割の父親が「非常にそう」「まぁまぁそう」と回答していました。母親の約半数も同様の回答をしています(図1)。同じ調査で「子育てにおいて父親はなくてはならない存在である」については、両親とも9割以上が肯定していましたが、「非常にそう」が、母親62.7%、父親42.4%と少し温度差を感じました(図2)。「子育ての中心は母親で、父親はそれを支える存在」という意識がうかがえるような結果です。社会の変化とともに意識も変化しているかもしれませんが、令和7(2025)年8月号の小欄でご紹介した「パパカフェ」(※1)では、最近でもこうした意識が一部のお父さんには根強く残っているのを感じます。
私たちがパパカフェを始める前に、父親インタビューで聞いた、「おっぱいは必殺技。あれが使えるママはずるい」、というあるお父さんの言葉が印象的でした。その後も、乳幼児の寝かしつけは妻にはかなわない、といった声をしばしば耳にしてきました。確かに母親だからこそ担える役割はあります。しかし、だからといって父親の役割が薄れるわけではありません。みなさんはどう思われるでしょうか。
※1 パパカフェ:子育て中のパパ同士が交流する場。クレオ大阪子育て館でも定期的に開催している。今後の開催予定は、8/29、10/17、12/19です。詳しくはクレオ大阪子育て館までお問い合わせください。
特にお子さんが小さい時期の子育てには、一般的に「母性」の重要性が強調されることがあります。ここで言う「母性」とは、「つながる」機能であり、あらゆるものを受容し、育む力をさしています。お子さんの成長にとっては不可欠な関わりです。しかしそれには同時に、ユング心理学でグレートマザー(※2)と言われるような、「飲み込む」働きも含まれています。行き過ぎると母性の渦の中から子どもが出られなくなってしまい、子どもの自立を妨げる危険性もあるのです。
そこで大切になるのが「父性」の機能です。ここで言う「父性」とは「きりはなす」機能であり、密着した母子関係から適度な距離をもたらし、子どもの自立を促す力です。母性的な要素と父性的な要素は、現れ方には個人差がありますが、性別に関わらず、すべての人の心の中に存在するものです。「お母さんが母性、お父さんが父性」という固定的な捉え方にとらわれず、シングルファザー・マザーも含め、両方の機能のバランスを意識しながら、子どもと関わることが大切なのかもしれません。
※2 グレートマザー:全てのものを育み、育てる偉大な母のイメージ。ユングによれば、全人類の無意識に共通して存在する「元型」の一つで、神話や昔話にも登場する。育む一方で、すべてを飲み込む否定的な側面も持つ。
私は、父親として子育てに関わることは、男性自身のこころの成長にとっても大きな意味があると考えています。子育ては、大人の思い通りにならないことの連続で、曖昧さや混沌に向き合う経験でもあります。これは、従来の男性優位社会の中で、家庭から遠ざけられ、社会の理屈や効率を重んじがちになっていた男性にとって、全く新しい体験にもなり得ます。
「子育ては、父親自身のこころ育て」というのは私自身の実感でもあります。娘が4歳の時、ひとつ実験をしてみたことがあります。あえて完全に我が子のペースに任せて、一切促したり手伝ったりしなかったのです。結果、「公園へ行こう」と2人で話がまとまってから、実際に家を出るまでに、3時間10分かかりましたが、子どもの気持ちを受け止めることや、見守ることの意義を考えさせられる機会になりました。みなさんも、よろしければ時間のある時に一度試してみてはいかがでしょうか。
発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団) クレオ大阪ホームページ