40、50代の女性に訪れる心身の不調。仕事への自信を失ったり、職場での理解が得られなかったり、悩みを抱えている方が増えています。令和3年度にNHKや労働政策研究・研修機構などが行った調査では、過去3年間に、更年期の体調不良が原因で離職した女性は46万人と推計されています。更年期障害について正しく知り、周囲で支え合うことが欠かせません。更年期の専門治療に携わる産婦人科医・甲村弘子さんと一緒に考えてみましょう。
こうむら女性クリニック(大阪市中央区)院長。日本産婦人科学会認定専門医。生理痛や不妊症、避妊、更年期や老年期ケアなど、一生を通じた「女性の健康の担い手」として多くの患者に寄り添う。
閉経の前後10年間くらいの間を更年期といいます。 早い人では42歳から、終わりは58歳ごろまで。平均寿命が延びていることから、閉経の平均年齢は徐々に上昇し、今は52歳ごろです。
この時期、女性ホルモンである「エストロゲン」の分泌量が急激に減っていき、自律神経が乱れてしまいます。こうした心身への不調の表れを「更年期障害」といいます。
更年期障害は、エストロゲンの減少という身体的な要因だけでなく、性格やストレスなどの心理的な要因、職場や家庭での人間関係などの社会的要因の3つが複雑に絡み合って症状に表れます
個人差が大きいのはそれが理由です。長所が「几帳面で真面目」な方は要注意。「何事もきちんとしないと気が済まない」「不安を感じやすい」といった弱みでもあり、更年期障害になりやすくなる場合があります。
「急に顔が熱くなって、大量に汗が出てきて…」。「仕事や家事が憂うつで手につかない」。これらは、更年期障害の代表的な症例です。
身体の不調が多い方も、精神的な症状が重い方も人それぞれ。300以上の症状があり、型にはめて捉えることはできません。
1.女性ホルモン補充治療(飲み薬や塗り薬など)
2.漢方薬
3.精神・神経症状を和らげる薬
3つの治療薬を併用することもあれば、1つだけの場合も。産婦人科を受診すれば、その人に合った治療を案内できます。
生活習慣も見直してみましょう。まずは、バランスのよい食事。大豆イソフラボンには植物性のエストロゲンが入っているので、豆腐や納豆などもおすすめです。ウォーキングなど適度な運動も取り入れましょう。イライラやモヤモヤを溜め込まないよう、人に話を聞いてもらうことも大切です。
更年期障害の治療は、1、2年では終わりません。症状に波があり、数年間治療は必要になりますが、多くは改善します。安心してください
令和元年度の45歳~54歳の女性の就業率は約8割(令和2年度厚生労働白書)。部下をマネジメントしたり、責任ある業務を任されたりする方もいるでしょう。更年期のつらい症状に苦しみながらも「頑張らなければ」と抱え込んでいませんか?
女性を取り巻く社会背景に注目してみましょう。数十年前まで更年期障害に大きく影響を与えていたのは、夫の存在。経済的に自立できない家事専業の女性に対し、「妻は夫に仕えるべき」と抑圧し続ける…。定年退職を迎え、一緒に過ごす時間が増える中で、そのようなストレスが続くと限界ですよね。家庭内別居や熟年離婚もストレスの要因のひとつでした。
現在もそういったケースはありますが、どちらかというと「忙しさ」が影響しているようです。職場での長時間労働やハラスメントに、私生活では親の介護で多忙な日々。さらに、子どもの進学や就職、巣立ちなど、孤独や喪失感を抱えるという場合もあり、ライフイベントが重なる時期です。
「関節痛でパソコンがうまく打てない」「接客中、お客さんの前で具合が悪くなった」「1時間おきに汗が出て、夜も眠れない」。家庭や子育てとの両立もなんとか乗り越えて、働き続けてきた方でも「なんとかならない」。ショックを受ける患者さんもいました。
男性の多い職場では、まだ理解が進んでいないでしょう。職場で更年期障害だとわざわざ言う必要はないですが、具合が悪い時には「つらい」「しんどい」と自分から伝えられるように心がけてください。治療で休職するなど、診断書が必要な場合、更年期障害だと言いたくないという方も時々います。そんなときも、医師に相談してみてください。
更年期障害が原因で、離職や転職をせざるを得ない「更年期離職」を経験した人は、男性よりも女性のほうが多いという現状があります。皆が皆、ずっと仕事を全うしなければならないとは思いませんが、本人が納得できる進路を選べるのが大切です。更年期はこれまでの人生を振り返る時期。老年期に向けて、体力の低下や変化を受け入れていく準備期間でもあります。決して自分を責めず、周囲に頼りながら乗り越えていきましょう。
更年期障害は誰でも起こりうる病気。仕事中に突然症状が出てしまい、本人も戸惑っているかもしれません。「大したことない」と決めつけず、仕方のないことだとわかってほしいです。ピンとこないという上司や同僚の方も相手を思いやる気持ちを持つことはできるはずです。 結婚や出産を経た後も、長く勤める女性が増えています。元気に働き続けてもらうためにも、治療が最優先。本人が不調を感じたら、遠慮せずに休みを取り、業務を分担できるよう職場環境を整えましょう。
仕事にはなんとか行けても、家に帰ってくるとぐったりして何もできない…。のぼせやほてりだけならまだしも、精神的にしんどくなっている姿を見ると、家族は心配になりますよね。パートナーに理解があると治療をスムーズに進められます。患者さんには、「病院で更年期障害という病気だと言われたよ」と家族にしっかり伝えるように勧めています。症状が改善するまでの間、家族全員の協力が欠かせません。
子宮筋腫の手術などで子宮を摘出した場合でも、卵巣から女性ホルモンが出ているので、心身の不調などの更年期障害は起こりえます。生理がなくなると、閉経のタイミングがわからなくなりますが、病院で調べることができます。
40代以降、男性ホルモンが緩やかに減り、心身の不調など更年期障害が起こる場合があります。男性は弱音を吐くのが苦手という人が多いです。我慢せず、男性更年期治療を掲げる内科や、ホルモン治療に取り組む泌尿器科に相談しましょう。
仕事や子育てに全力投球。自分のことはつい後回しになってはいませんか? 一旦立ち止まって、心身の不調や変化がないか振り返ってみましょう。
更年期障害に限らず、女性にとって大きな健康問題に直面する時期でもあります。女性ホルモンが減ると、自覚症状がないままに「骨粗しょう症」や「脂質異常症」のリスクが高まっています。「子宮体がん」や「乳がん」の検診も忘れないでください。
まだ20、30代の方にとっては、更年期を想像することは現実的ではないかもしれませんね。今からできることとして、日頃から何でも相談できる「パートナー医」を見つけておきましょう。最近は、産婦人科にも女性医師が増えています。普段から心身の変化や困りごとなどを書き留めておくと、よりよい治療につながりますよ。
発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
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