今年1月17日は阪神・淡路大震災から28年、3月11日には東日本大震災から12年を迎えます。災害時、性別による支援のニーズの違いや、女性の意見の届きにくさがこれまでの教訓から指摘されてきました。それらを解消するには、日頃から地域防災組織や地域コミュニティの防災活動に「ジェンダー平等」の視点を取り入れることが欠かせません。女性や子育て中の人など、多様な立場の人がかかわる防災について、2人の活動事例を紹介します。一緒に考えてみませんか?
大阪市淀川区の新東三国小学校区を基本とした新東三国地域活動協議会に所属しています。約10年の活動の中でも、特に力を入れているのが地域防災です。
防災士である私は、淀川区の地域防災リーダー※の隊長です。女性である私が隊長をしていることは珍しいと思います。それほど地域防災は男性中心社会です。そんな中、私がかなえたい未来は、「地域防災におけるジェンダー平等」です。
大阪市男女共同参画基本計画(第3次大阪市男女きらめき計画)でも、防災分野における意思決定の場への女性の参画拡大は不可欠と示されています。しかし、まだまだ取り組みは道半ばです。
※地域防災リーダーとは 大規模災害時には、隣接住民の先頭に立って初期消火救出救護活動を行うリーダー。平常時には地域の人たちに、防災点検・防災啓発を行う。
なぜ地域防災にかかわらず地域に女性のリーダーが少ないのでしょうか?それは、慣習による既成概念が大きな原因だと思います。女性より男性の言うことの方が素直に受け入れられがちです。その長く続いている慣習が「地域のリーダーは男性が向いている」という既成概念を定着させているのだと思います。
私は女性に限らず、誰もが意思決定の場で「地域社会や地域防災をもっと良くしていきたい」と声をあげることが必要だと思います。たとえば、小さなお子さんがいる方は、ボランティア活動をしたくても、託児スペースがないという経験はありませんか?地域活動の会議も、女性が参加しにくい夜間である場合も多いです。平時においてもさまざまな人が参加しやすい状況でないのであれば、災害時にはどのようなことが起こるでしょうか?
女性は子どもを預けられなくても、避難所で炊き出し班に入れられるかもしれません。男性役員ばかりの避難所運営委員会では、生理用品など、女性特有の物資も男性が配ることになるかもしれません。多様な人々の視点が入ることで、避難所での役割分担に男女の偏りがないかといった、ジェンダー格差の課題を点検できます。また、物資の配布についても、男女のニーズの違いや求められる配慮について把握することで、災害時に起こるさまざまな困難を減らしていけるのではないでしょうか?
ニーズに沿った物資が足りない
女性…生理用品、サニタリーショーツ、おりものライナー
子育て中の人…粉ミルク、哺乳瓶、紙おむつ、おしり拭き
避難所でのプライバシーの確保ができない
トイレ・更衣室・洗濯物の干場・授乳室の不足
(授乳の注視や着替えののぞき、性的暴力などにつながる場合もある)
新東三国地域は新大阪駅に近く、交通の便が良いこともあり、単身世帯向けのワンルームマンションも増えています。人口の転入出も多く、地域での付き合いは少ないと感じます。そんな中でも、住民の防災意識の向上が必要です。これは、都会である大阪市内共通の課題であると思います。
そんな課題を解決しようと、男女問わずみんなの意見から生まれたアイデアが、新東三国小学校で開催した「避難所公開デイ」です。小学校は、災害時に避難所になる場所。約3000人が訪れる選挙の投票日に実施し、ハザードマップや備蓄品を見てもらいました。訪れた人に「ここは避難所にもなるんだ」という意識を持ってもらうための取り組みは、ずっと続けています。
このような活動を続ける中、新東三国地域活動協議会の役員会も、これまで2人だった女性役員が令和4年度には5人になり、男性役員4人を上回るようになりました。女性役員が増えた理由ははっきりとはわかりませんが、私が役員として前に出ることで、選出の際に「役員は男性である必要はないよね」「性別関係なく、リーダーシップを発揮できる」という認識が広がったのかもしれません。
女性役員の発言しやすい環境が整うことで、他の女性たちも積極的に発言するようになりました。男性役員も「適材適所の結果」と男女共同参画に肯定的です。男女の区別なく、意見を出し合うことで地域課題を解決するアイデアを形にできるようになりました。
備蓄品やハザードマップを展示した「避難所公開デイ」
女性がリーダーになった時、ことさらに「女性」を強調されなくてもいい社会。それが私の理想です。新しい女性役員が「やりたいこと」をどんどん口に出すようになりました。彼女たちはそれを「楽しい」と言ってくれます。
地域コミュニティの活動は「時代遅れ」「必要のないもの」。ともすれば、そう思われがちです。でも、災害が起こった時、必要になってくるのは地域コミュニティです。彼女たちのチャレンジが、活動の形を変えていくと思っています。私はその地域コミュニティをどんな困難にも負けない、しなやかで強いものにしたいです。行動を起こせば、社会は変えられる。チャレンジこそがチャンスを生む唯一の手段だと私は思っています。適材適所の結果が、さまざまな場面で画一的ではない多様なリーダーを生み、暮らしやすい町をつくっていくのではないでしょうか。そのためのチャレンジをこれからも続けたいです。
新東三国地域活動協議会副会長。新東三国と淀川区の地域防災リーダー隊長を務める。 令和2年度には地区防災計画策定に携わり、今年度は計画更新に向けて取り組んでいる。
核家族化が進んだ現代の「まち」に意識を向けた時、防災・防犯面でさまざまな課題があると、皆さんも日々感じているのではないでしょうか。私自身、子どもが幼い時には体調不良や夫の長期出張の時に孤独を感じてしまうこともありました。「通院のため、ちょっと見ておいてほしい」「寂しいのでおしゃべりしたい」という友人関係ができるまでは、心細かったです。そんな中で災害が起こったら、多くの困りごとがのしかかるのではと感じます。
そうした経験から、私は今、大阪市北区で子育て世代の居場所づくりに取り組む「あおぞら湯」の代表を務めています。活動のキャッチコピーは「のれんをくぐればココロあったまる」。子育て層が地域コミュニティに参加するハードルを下げられるような事業を展開していますが、その一つが「誰でもできる地域防災」です。
平成28年度から毎年実施しているのが、乳幼児ママや子育て支援者向けの「あおぞら防災ママ認定講座」です。防災士や区役所の防災担当者から、北区ではどんな災害が起こる可能性があるのかなど、基礎的な知識を教わり、コロナ禍でもよく聞くワードとなった「正しく恐れる」ことを学んでもらいます。
知識を得た後は、「無理なく備える」ことが大切です。参加者同士で、缶詰めやアルファ米を持ちより、試食会も開催。長期保存できる食べ物、食べ慣れた食事について考えるグループワークを実施しました。参加者から出てくるアイデアやワードから、災害への備えの多様性やそれぞれのライフスタイルにより、正解が違うと体感できました。これは子育てと通ずるものがあり、アイデアをたくさん知っていることは身を守る術になると納得します。
小さな子どもを育てる世帯は、まちにいる時間も長いんだという気づきもありました。子育て中は働く場所よりも、住む場所で被災する可能性が高いのではないかと思います。子育て中の皆さん、「それなら、自分のまちのことはもっと知っておかないと」という気持ちになりませんか?
講座2年目からは福祉的視点を取り入れています。障がいのある方など社会的弱者は、被災時に平時よりももっとつらい思いをすると思います。どんな困りごとが起きるか、被災体験や被災地支援についても取り上げています。
この講座は今年度で7年目を迎え、これまでの参加者は約80人になりました。1期生は、大阪府下の幅広い地域から、既に子育て支援や防災の啓発に取り組んでいる人が新たな視点を得るために集まってくれました。2期生以降は、託児付きにしたことで、地元・中津の当事者ママさんたちの参加が増え、「同じくらいの子どもがいる親同士のコミュニティが強固になった」といった感想もいただきました。
「防災ってなんだか難しそう」「あまりなじみがない」。そう感じている人も、生活そのものに防災視点を持っていれば、そんなに堅苦しくなくなるかもしれません。「優しいまち」をイメージした日常の営みに変えられるのではないかと、自分自身も毎年学びを深めながら実感しています。受講をきっかけに、修了生は地域コミュニティに参加したり、地域防災に取り組んだりと、活動の場を広げています。
地域防災は、行政との連携も大切だと感じます。北区が作成した「大阪北区ジシン本」を活用し、子育て層への講座や啓発にも取り組んでいます。講座では、耐震マットの体験や防災食の湯煎調理の実演などを行い、あおぞら湯スタッフがそれぞれ自分の言葉で伝えています。受講者アンケートでは「難しくなさそうなので、やってみようと思った」という回答も多く、誰でも取り組みやすい内容を届けられていると思います。最近はYouTubeでの「見る防災」にも力を入れています。
住んでいるまちや子育てについて情報網を持っていることは、防災面でもコミュニティ形成の面でもとても有用です。最近「防災に女性の視点を」とよく聞きます。現状では、家事・育児・介護・ご近所づきあいの多くを担っているのが女性であることから、その特性を活かした「生活者としての視点」という意味もあるのではないかな、と思います。
災害が起こった非常時のまちには、力持ちが必要。お節介が必要。ごはん作る人が必要。優しくお話を聴く人が必要。リーダーシップも必要…。それぞれの得意分野を活かした活動なら誰でも関われるんではないでしょうか?「私はこんなことならお手伝いできます」と言えるまちがつくれるといいなと思います。
最後に、あおぞら湯の防災担当スタッフからもらった素敵な言葉をお伝えします。 「私たちも最初は防災って難しいものだと思っていたけど、老若男女、誰にでも関係している。この世に生まれた時から、命を守るという大切なことが始まっている!つまりは『笑って生きようってことなのかも』と考えるようになると、楽しく取り組めるようになったんだ」。
皆さんはどう思いますか?自分の中にある防災力を発揮してみませんか。
子育て支援サークルとして立ち上げた「あおぞら湯」を、平成30年に一般社団法人化。大阪市地域子育て支援拠点実施施設「中津つどいの広場ぐぅぐぅ」「豊崎つどいの広場ぐぅぐぅ」を運営するほか、「大阪北区ジシン本」事務局も運営する。
令和3年度に、大阪市と大阪公立大学が連携して実施した「女性と防災に関するアンケート」などを元に、地域防災活動へ女性の参画を促進するために必要なことについて学びます。防災・減災に取り組む女性も登壇予定です。先進事例を紹介します。
発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪市男女共同参画のまち創生協会)
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