クレオ大阪中央研究室長 服部 良子
(専門分野:社会政策、ワーク・ライフ・バランス問題)

男女が働きながら
不妊治療できるように、
国や職場が支援を始めています

 「病気やけがをしていなければ健康である」と私たちは考える傾向があります。妊娠・出産は身体への負担があっても保険診療対象として扱われません。これまで社会的文化的に、妊娠・出産は女性にとって「自然」なものと考えられてきました。しかし、1990年代以降、世界的に少子化が進む中、不妊は先進工業国で社会的課題となり、特に、2000年頃から医療技術革新の進展とともに、多くの欧米諸国で不妊治療が生殖補助医療への公的な経済的支援の対象に採用されました。日本でも出生率の低下傾向が定着しつつある中、令和3年度から不妊治療への支援政策が拡充となりました。

不妊治療を希望する人が増えている

 「不妊」とは、妊娠を望む男女が避妊をしないで性交しても一定期間妊娠しないことをいいます。日本産科婦人科学会では、一定期間を「1年というのが一般的である」と定義しています。女性に排卵がなかったり、現在や過去に一定の病気に罹ったことがあったり、男性の精子数が少なかったりすると妊娠しにくいことがあります。また、男女とも加齢により妊娠しにくくなると言われています。生殖補助医療としての不妊治療には、体外受精、 顕微授精、凍結胚(卵)を用いた治療などがあります。
 日本では2015年の「結婚と出産に関する全国調査」によると全出生児約100万人のうち20人に1人以上が不妊治療で産まれています。そしてそれは年を追う毎に増加傾向にあります。妊活ともいわれる不妊検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は18.2%となり、夫婦全体の5.5組に1組の割合になります。不妊を心配したことがある夫婦は35.0%となり、夫婦全体の2.9組の1組の割合になります。不妊がごく身近なことになっているといえるでしょう。
 不妊治療は、まず検査によって原因を探ります。近年では原因に応じて男性不妊、女性不妊の治療が進められ段階的に治療方法をかえていきます。治療を続けるには仕事を休む必要があります。しかし、勤務先に不妊治療の支援制度があるケースはまだ少なく、男女ともに仕事との両立に負担感を感じる人は少なくありません。
 そして、不妊治療の医療費も少なくない額です。通院開始後50万円以上が34.5%という調査データがあります。しかし、検査や治療の費用のうち公的助成対象となるものは限られています。

不妊治療サポートの未来図

 こうした不妊治療の経済的負担の軽減を図るため、不妊治療費用の一部助成が始まっています。夫婦合算で730万円未満とされた所得制限がなくなり、助成額も増額され助成回数の制限も緩和されました。費用負担への助成とともに、時間負担への助成も「不妊治療と仕事の両立」として事業者向けの啓発と施策の実施プログラムが進んでいます。所属企業において不妊治療への理解と支援を求める政策が始まったのです。
 今後、次世代法や女性活躍推進法に基づいて行動計画策定が各企業に義務づけられるように、不妊治療サポートの行動計画策定が求められる日がくるかもしれません。なぜならその具体的プログラムは女性活躍推進法とよく似ているからです。少子高齢化の下で次世代育成や女性活躍を進める日本社会にとって、男女が働きながら不妊治療できる働き方の実現はもはや必須課題になっているといえるでしょう。

大阪市の支援について

不妊に悩む方への特定治療支援事業(特定不妊治療費助成)に ついて、ホームページ(こちら)を参照してください。

2021年7月号 コンテンツ

P.2-5

P.6

P.7

P.8

P.9

P.10-11

表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
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