NPO法人てんやく絵本ふれあい文庫代表 岩田 美津子 さん

同じ土俵で生きていきたい

 SDGsの実現を考えた時、それはほんの小さな一歩から始まると思います。私は晴眼の親子が楽しそうに絵本を読んでいる姿を見て、「私も同じように楽しみたい」と思いました。その経験から、絵の形や文字を点字にした透明シートを貼った「てんやく絵本」を思いつきました。ボランティアの方にてんやく絵本を作ってもらい、親子で楽しむ中で、今度は「他のご家庭でもこの喜びを味わってほしい」と願い、約40年前に貸し出しを始めました。
 利用者は全国に増え、ご両親からは、「あきらめていた絵本を読んでやれるようになってうれしい」とか、お子さんからは、「絵の様子も分かって楽しい」といった声が届くようになりました。特に印象深かったのは、子どもの家族と同居している全盲のおばあちゃんから届いたお便りです。「てんやく絵本を利用するようになって、孫が『読んで』と私のそばに来るようになり、子どもからは孫を任されるようになりました。このてんやく絵本のおかげで、家族の役に立てていることを実感できるようになりうれしかった」と喜んでおられました。
 そして、今では日本中の人たちが絵本を楽しめるようになったのです。絵本に点訳をつけるという工夫によって、皆が同じ喜びを味わい、同じ土俵で生きていくことができるのです。

小さな力が大きなうねりを生む

 ある時、私はてんやく絵本だけでなく、だれもがさわって楽しめる絵本が書店や図書館に並んでいてほしいと思うようになりました。それは出版物を意味します。誰彼となく私の夢を語っていたら、賛同してくれる人たちが現れ、第一歩が動き始めました。
 試行錯誤の連続のなか、丸2年を要して完成したのが、透明な樹脂インクで絵の形と点字を盛り上げた、フルカラーの点字つきさわる絵本です。しかし、コストや技術面で厚い壁に阻まれ、普及が進みません。そこで、子どもの本を扱う関係者に呼び掛け、出版と普及を考える研究会を立ち上げました。
 最初は10名程度しかいなかった研究会もやがて参加者が増え、点字つきさわる絵本の素晴らしさと大切さが認識されるようになり、今では9社から24冊が出版されています。誰もが知っている『ぐりとぐら』『はらぺこあおむし』も点字が付き、絵がさわれるようになり、多くの見える人見えない人が、絵本を見てさわって、楽しめるようになりました。
 新しいことをしようと思うと確かに大変です。でも無理かなと思われることもあきらめずに、声を上げ、行動を起こすことによって世の中を変えることができるのです。

岩田 美津子 さん
1984年「点訳絵本の会 岩田文庫」を大阪市内で創設。1991年名称を「てんやく絵本ふれあい文庫」と改める。2002年「点字つき絵本の出版と普及を考える会」を発足。絵本出版社や編集者・研究者・印刷関係者などを結んで、点字つき絵本の出版普及の促進活動に努める。

「てんやく絵本」と「点字つきさわる絵本」を貸し出しています

クレオ大阪中央は、てんやく絵本ふれあい文庫と連携し、てんやく絵本と点字つきさわる絵本を貸し出しています。 ご希望の方は、クレオ大阪中央 情報・図書コーナーにお問い合わせください。

クレオ大阪中央 情報・図書コーナー

2021年7月号 コンテンツ

P.2-5

P.6

P.7

P.8

P.9

P.10-11

表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
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