すべての若者が、暴力の被害者にも加害者にもならないで生きてほしい

ホリスティック教育実践研究所 所長 金 香百合さん

 10代の若者たちや保護者、教師や関係者など、さらに、かつて若者だったすべての方々へ「すべての若者が、暴力の被害者にも、加害者にもならないで生きてほしい」ということを伝えたいと思います。 ここでは、若者という言葉は、10代から20代前半くらいの人々を想定していますが、年齢は限定していません。小中学生や高校生・専門学校・大学等の学生や、勤労青年(古い言葉ですね!)、などを視野にいれて、ゆるく使っています。

若者の生活環境には暴力がいっぱい
 今、私たちのまわりに、さまざまな暴力が発生しています。特に若者たちの生活環境では、暴力の被害も加害も、女・男・性的少数者などのあらゆる人たちに起こっています。
 たとえば、最近のニュースで見聞きするものを思いうかべてみましょう。虐待、いじめ、痴漢、盗撮、ストーカー、デートDV、レイプ、レイプドラッグ、児童ポルノ、AV出演強要、スクールハラスメント、就活ハラスメント、バイトセクハラ、SNSに起因する性被害、JKビジネス、災害時の性暴力…次々にでてきます。この中で、知らなかった言葉があれば、ぜひ内閣府男女共同参画局のHPにアクセスしてください。

暴力は他人事?自分事?
 すべての暴力は、他人事ではなく、誰にでも起こりうる自分事です。今も身近なところで発生しているものが多々あります。自分が暴力について無自覚なために、存在しているのに、気づいていないということもあります。ぜひ暴力のことを学んでください。暴力には、①弱い人にする、②拡大する、③連鎖するという特徴がありますが、学習することで、連鎖や拡大を断ち切っていくことが可能になります。

暴力への感受性と偏見
 今、あなたの「暴力に対する感受性」はどんな状態ですか。とても敏感?それとも鈍感?暴力の多い環境に長くいると、感受性がまひすることがよくあります。暴力に鈍感になることで、この辛くて苦しい状況から生き延びるよう、脳の自己防衛反応が働いているのです。

 もうひとつ、これまでの環境で身についた「無意識の偏見」というものが誰にでもあります。暴力についての「無意識の偏見」も多いです。無意識の偏見は「アンコンシャス・バイアス」と呼ばれ、企業が最近実施するハラスメント防止研修では重要課題となっています。

  ぜひ、被害者にならず、加害者にならず、傍観者にもならないで、幸せに元気に自分らしく生きてください。あなたのいる環境(コミュニティ)を、安心で安全なものにしてください。心から若者を応援しています。

 無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を検証 

あなたは次の考え方について、賛成反対

○親が子どもを怒鳴ることや、たたくことはしつけであり、必要な時もある

○お金を稼いでいる夫が、妻や子どもにえらそうに言ってもよい

○いじめはうちの学校にはない。起こっていることは単にふざけあっているだけ

○先生やコーチの言動は、常に子どものための指導であり、体罰や暴力ではない

○先輩や上級生の言動は、この学校の伝統なので、下級生は逆らわずに従うべき

○つきあっていたら、相手を独占するような言動も、好きだから当たり前

○バイト先の上司が言う指示や要求に、NOといえばクビになるのは当たり前

○性犯罪・性暴力の加害者は、見知らぬ男性がほとんど

実は、これらは全部「暴力への無意識の偏見」です。

 被害者・加害者・傍観者にならないためには 

まず、暴力は加害者の問題です。おとなしくて弱い対象を選んで加害をします。被害者にも落ち度があるという考えは「無意識の偏見」です。傍観者はすでに加害に加担しています。

〈保護者など大人のみなさんへ〉
暴力の初期段階で気づき、すぐの対処が重要です。「様子をみてみよう」という「放置」は暴力を拡大・連鎖させて、解決を困難にします。日頃から相談先を確認しておく必要があります。

〈若者のみなさんへ〉
●ふだんから相談できる、対話的な人間関係をつくる
●電話&SNS相談やワンストップセンター・人権センターなどの支援機関を調べておく

〈保護者など大人のみなさんへ〉
●加害者心理や脱暴力学習プログラムをインターネットなどで調べる
●被害者心理や回復プロセスを知る
●傍観者心理や影響を知る
●校長・教職員・指導者等には定期的な人権研修が必要
●学校等で非暴力を学ぶワークショップの実施

ホリスティック教育実践研究所
所長 金 香百合さん

大阪女学院大学・短大非常勤講師。大阪市こども相談センターのカウンセラー。大阪YWCAで20年勤務し、青少年活動やこころのケア、DV被害者支援などを担当。 特に人権教育やジェンダー教育に長年関わり、全国各地での講演や研修に奔走してきた。考案した「自尊感情暴力理論」は多くの人の共感を得て活用されている。養育里親の経験をもち、自宅の、みんなの居場所「eトコ」には多様な人が集まる。

2022年1月号 コンテンツ

P.2-3

P.4-5

P.6

P.7

P.8

P.8

P.9

P.10-11

表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
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