W7が訴えたこと

ジェンダー平等実現に向けて、未来への提言

 5月19日から21日にかけてG7広島サミット首脳会議が開催されました。サミットの議論に自分たちの課題を反映させるためにエンゲージメント・グループ(市民社会組織、女性団体、企業、労働組合、ユースなどによって構成された組織)があり、それぞれが、コミュニケ(政策提言)をまとめています。グループには、B7(Business 7)、C7(Civil 7)、T7(Think 7)、W7(Women 7)、Y7 (Youth 7)等があります。2023年は、LGBTQIA+(※)の当事者の方たちがP7(Pride 7)を立ち上げるという画期的な動きもありました。

W7(Women 7)ジャパン2023に向けて

W7サミットの会場参加者とともに  ©Women7/Yuichi Mori

 W7は、G7の議論にジェンダー平等と女性の権利に関する課題を反映させることを目的として集まった女性団体/市民社会組織で構成されるグループです。W7として提言をまとめ、G7の首脳に提出し、G7の首脳会合や様々な分野の大臣会合でジェンダー平等に関する課題が十分に話し合われ、G7サミットの宣言や声明でジェンダー平等の実現に向けた明確な意思が示され、それらが具体的に実施されることをめざします。
 W7が女性団体/市民社会組織のメンバーにより開催されるようになったのは、カナダがG7の議長国を務めた2018年が最初です。G7サミットの開催に至らなかった2020年の米国を除き、2019年にフランス、2021年に英国、2022年にはドイツで開催されました。W7の運営と開催は、基本的に、その年のG7議長国の団体や組織に任されており、今年は(一社)SDGs市民社会ネットワーク(SDGsジャパン)のジェンダー・ユニット(幹事団体:ジョイセフ、日本女性監視機構 (JAWW))が中心となって実行委員会を立ち上げました。
 W7ジャパン2023の全体メッセージでありスローガンは、「フェミニストは求めます、平等で公正で平和な未来の実現を(Feminist Demands for Building an Equal, Just, and Peaceful Future)」です。ここでのフェミニストは、米国のブラック・フェミニスト、ベル・フックスの定義にならい「性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動に参加する人」という意味であり、性の多様性を包摂し、すべての人を含みます。W7ジャパン2023がLGBTQIA+の課題を主流化することを理念として掲げていることも踏まえ、「女性」ではなく「フェミニスト」という言葉を選びました。LGBTQIA+の課題の主流化、そしてグローバル・サウス(※)からの参加に加え、W7ジャパン2023の運営と開催にあたり、実行委員会は以下の3点を大切にしました。

1)全ワーキンググループを横断するテーマとしての差別と不平等の交差性と複合性
2)ユースの参加の保障
3)上げられない声、聞こえにくい声を聞くための最大限の努力

※LGBTQIA+:レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニン グ、インターセックス、アセクシュアルの頭文字をとった言葉で性的マイノリティの人たち

※グローバル・サウス:インドやインドネシア、トルコ、南アフリカといった南半球に多い アジアやアフリカなどの新興国・途上国の総称

W7ジャパン2023がG7に求めた5つの提言

 W7の最も重要な活動は、G7議長に提出する政策提言(コミュニケ)の作成ですが、できるだけ広汎な意見を集めて提言を作成するために、2022年ドイツに続いて全世界にアドバイザー応募を呼びかけ、最終的に38カ国87名にアドバイザーをお願いし、提言を作成しました。グローバル・サウスからの参加者が40%、ユースの参加者が20%を占めます。5つのワーキンググループのテーマと提言の主な内容は以下のとおりです。

女性のエンパワメント、意味ある参加、リーダーシップ

人種主義、植民地主義、家父長制がジェンダー平等と女性の権利実現を阻んでいる。選択議定書を含む女性差別撤廃条約の完全な批准。クオータ制の導入。自己肯定感を育む教育。ジェンダー状況を把握するためのデータ収集。デジタル技術がもたらす女性と少女へのネガティブな影響への対応。

女性の経済的正義とケア・エコノミー

パンデミック下の公的支出の不十分さを補っていた女性の無償のケアワークが格差と不平等をさらに拡大。政策全体にケアの価値と重要性を反映させ、公的なケアサービスに投資。女性の無償のケアワーク削減。保健・ケア分野の労働をディーセントワークに。男女間の賃金格差の解消。仕事の世界のハラスメント根絶。生活賃金保障。

身体の自律と自己決定

多様な性的マイノリティの人たちへの支援を含む、国際人権基準に則ったジェンダーに基づく暴力の予防・保護・処罰等のための法整備。オンライン暴力への対応。包括的性教育の実施。避妊や人口妊娠中絶を始めとする性と生殖に関する健康に関連するサービスへのアクセス保障。強制不妊手術政策の撤廃と適切な対応。

持続可能性と正義のためのフェミニスト外交政策

複合的にジェンダー化された人道危機への対応。交差性の理解と人権に根ざして平和、安全保障、人道および開発援助、環境、貿易に統合的にアプローチする外交政策の採用。軍事費削減。ODAの最低20%をジェンダー平等を主要目的とするものに。気候変動対応への十分な支出。

ジェンダー平等のための説明責任と財源調達

ジェンダー平等をグローバルに推進する政策を実施するための交差性に留意した性別データ収集への投資。公約・政策への説明責任を確認・検証するためのメカニズム整備。国内・国外両方でのジェンダー平等への資金・財源調達。女性/フェミニスト団体への支援強化。

W7サミットの交差性・複合差別のセッション  ©Women7/Yuichi Mori

W7サミット開催、そしてG7広島サミットの議長である首相にコミュニケ提出

 W7サミットは、2023年4月16日(日)に東京で開催されました。対面、オンラインを併せ日本と世界から約400名の参加があり、分野横断的テーマである交差性・複合差別や各ワーキンググループの提言について参加者の皆さんとともに理解を深めるセッションを持った他、小倉男女共同参画・女性活躍担当大臣が会場に来場してスピーチし、ユースとの意見交換に参加しました。また、翌日の17日(月)には、首相官邸で岸田総理に提言を手渡しました。5月20日に発表されたG7広島首脳コミュニケに対しては、翌21日に広島で記者会見をおこない、W7としての見解を公表しました。歓迎する点と懸念する点の主なものは次のとおりです。

G7広島サミット首脳コミュニケに対するW7ジャパンの見解

ジェンダーに関する構造的な障壁や固定観念の克服

長年の構造的障壁、有害なジェンダー規範、ステレオタイプ、規範、慣行を克服するためのコミットメントを表明した。

ジェンダー平等のための社会的変革

「ジェンダーを変革する変化」、「我々の社会の実質的な変革」など、ジェンダー平等への道筋として社会的変革への言及が繰り返されている。

女性とLGBTQIA+の人々への人権侵害を非難

LGBTQIA+の人々の人権と自由に対するあらゆる侵害を非難している。

あらゆる
暴力の根絶

紛争に関連した性的暴力及びジェンダーに基づく暴力を根絶するための取組の強化、及びサバイバー中心のアプローチの採用を明言した。

生活ができ質の高い仕事を全ての人に保障

すべての人に働きがいがあり人間らしく良質な仕事を保障し、特に女性や社会的に周縁化されたグループを誰一人取り残さない包摂的な労働市場を構築するという決意を表明した。

ケアワークの公正な評価と女性の不平等な負担への対応

ジェンダー不平等の主要な原因として女性のケアワークの不平等な負担を指摘し、アンペイドワークやケアワーカーへの対応の必要性に言及している。

性と生殖に関する
健康と権利

ジェンダー不平等の主要な原因として女性のケアワークの不平等な負担を指摘し、アンペイドワークやケアワーカーへの対応の必要性に言及している。

特に紛争に関連する性的暴力への不処罰の根絶

紛争に関連した性的暴力を含む、最も重大な犯罪の加害者の責任を追及することへのコミットメントを表明した。

主な懸念事項

●ジェンダー平等への取組みを裏付ける財政的なコミットメントの表明が不十分であること。

●特に地域コミュニティでジェンダー平等と女性のエンパワメントに果たしてきた重要な役割を認識し、女性団体や市民社会団体への支援を強化する必要があること。 

●ユニバーサルヘルスカバレッジ※の実現に不可欠な要素としてSRHRを位置づける必要があること。

●ケアに関するジェンダー不平等を確認しつつ、G7として具体的な政策が示されていないこと。

●AIを含むデジタル技術の進歩が女性や女児に関する固定観念や偏見を強化するなどの有害でジェンダー平等を逆行させる影響に対し、規制の導入を含む対策を検討する必要があること。

※ユニバーサルヘルスカバレッジ:全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態

G7サミットって何?

G7サミット(主要国首脳会議)とは、フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ(議長国順)の7か国、並びに欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加して、毎年開催される国際会議です。G7サミットでは、自由、民主主義、人権などの基本的価値を共有するG7首脳が一つのテーブルを囲みながら、世界経済、地域情勢、様々な地球規模課題について、率直な意見交換を行います。G7サミットの日本での開催は、2023年が7回目となります。

ジェンダー平等と女性の権利のために

首相官邸で岸田首相にコミュニケを手渡す  ©Women7/Yuichi Mori

 6月24日から25日に、G7栃木県・日光男女共同参画・女性活躍担当大臣会合が開催されました。首脳コミュニケで示された公約を実施するための財源確保を始め、上述した懸念事項に関して議論が深められ、それによりジェンダー平等と女性の権利の実現がG7で、そして世界で具体的に前進することが重要です。
 そのためには、ケアワークの公正な評価に基づいてケアワーカーの労働条件を改善すること、国際人権基準に則って性と生殖に関する健康と権利を保障することを始めとして、コミットメントが具体的な政策と施策として実施され、そのための十分な財源が確保されることが何より大切です。そのために、日本でそして世界で「聞こえにくく」「忘れられがち」な声を聞き、交差性・複合性の理解に立って、新型コロナウイルス感染症の大流行が改めて白日の下にさらした構造的なジェンダー不平等と差別を解消するために、私たちの意思と情熱を集める必要があります。W7ジャパン2023のコミュニケが強調したように、ジェンダー平等を核とする平等で公正で平和な未来は、すべての人に恩恵をもたらす未来です。

W7ジャパン2023共同代表、ヒューライツ大阪所長
三輪 敦子さん

プロフィール:日本赤十字社外事部(現国際部)、国連女性開発基金(現 UN Women)アジア太平洋地域バンコク事務所、公益財団法人世界人権問題研究センターなどで、ジェンダー、開発、人道支援、人権分野の様々なプログラムの実施支援や調査・研究に携わる。2017年から一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)所長。一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク共同代表理事。国連ウィメン日本協会副理事長。国連ウィメン日本協会大阪会長。2018年からW7に参加し、2022年のW7ドイツではアドバイザーを、W7ジャパン2023では共同代表を務めた。

世界と日本を比べてみよう

ジェンダーギャップ指数から見る日本の現状

 世界経済フォーラム(WEF)が発表した2023年度ジェンダーギャップ指数の日本の順位は、146カ国中125位で、昨年の116位から9つ順位を落とし、過去最低を記録し、主要先進国では引き続き最下位となりました。1位となったアイスランドと比べると、日本は「教育」「健康」の分野では高数値である一方、「政治」「経済」の分野で低数値であることが総合順位の低さに影響する結果となっています。管理職の女性比率や政治への参加が低いことに加え、男女間の賃金格差などが課題とされています。

2023年7月号 コンテンツ

P.2-5

P.6-7

P.8

P.9

P.10-11

表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
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