災害対応と男女共同参画(下)

クレオ大阪中央研究室長 服部 良子
(専門分野:社会政策、ワーク・ライフ・バランス問題)

防災に関する調査から見えてくるもの

 大規模な災害が発生した場合、女性や子どもをはじめ脆弱な状況にある人々がより多くの影響をうける現状があること、また、性別のニーズの違いなどが配慮されにくい課題が指摘されてきました。適切な防災対応について、男女別のデータの収集や分析をするため、今年度大阪市では男女共同参画の視点からの防災に関する調査を実施しました。

避難所の運営にかかわる男女の意識

 調査において男女の差があらわれた設問の一つに、避難所生活の運営に関するものがあります。「一定期間を避難者同士で生活することとなった場合」に対して、男性の40%は「男性・女性の意見・ニーズが反映された生活」となると予想しています(図1)。それに対して、女性の約40%が「男性・女性の意見・ニーズは反映されない生活」を予想しています。「女性より男性の意見・ニーズが反映される」とする比率は、男性よりも女性が高くなっています。こうした男女差は、社会に対する考え方や各個人の生活実感が反映されるのかもしれません。男性は制度や仕組みに対する信頼度が高いといえるのではないでしょうか。それに対して女性は、男性より相対的に厳しい状況を想定しています。
  こうした結果の根拠のひとつに、大阪市における男性の防災リーダーは、女性の約4倍であるという現実があると思われます(参考:第3次大阪市男女きらめき計画(令和3〜7年度))。今回の調査でも、男女ともに6割以上の人が「男性が多い」ことを認識しています(図2)。
 国の男女共同参画政策でも「大阪市男女共同参画基本計画〜第3次大阪市男女きらめき計画〜」においても述べられていますが、これまでさまざまな意思決定過程への女性の参画が十分に確保されなかったことにより、女性と男性のニーズの違いなどが配慮されにくいといった課題が生じてきました。

図1

地域における避難所などにおいて、一定期間を避難者同士で生活することとなった場合、どのような生活になると感じていますか。 (ひとつだけ)

出典:令和5年度「男女共同参画の視点からの防災に関する調査」(大阪市)

図2

地域の防災活動におけるリーダーは男性、女性のどちらが多いと思いますか。(ひとつだけ)

出典:令和5年度「男女共同参画の視点からの防災に関する調査」(大阪市)

男女ニーズを地域活動と防災に反映する工夫:
学習と女性リーダー・参加者を増やすこと

 そうした現実を変化させるにはどうしたらよいかについて、今回調査では、具体的例として避難所生活を想定して地域活動、そのリーダー、そして男女共同参画視点の啓発などについて市民の考え方を調べました。(図3)。いくつでも選択できる調査方式ですが、女性の回答数の多い順に結果を並べてみましょう。すると求められている課題がはっきり見えてきます。
 最も多い40%以上の女性が指摘したことは、「地域防災活動のリーダーが男女に配慮した視点を学習する機会」を設けることでした。この点は防災だけでなく地域活動全般について同程度の女性が選んでいました。「男女に配慮した視点を学習する」とは男女共同参画の理解を深めることです。こうした学習をした地域活動のリーダーならば、災害の際、市民のニーズに配慮した適切な避難所を運営するであろうと考えられているのです。
 同様に「女性に地域活動へ参加を促す研修」も選択されています。「活動への女性参加者を増やす」ことや「女性のリーダーを増やす」という基本とともに「男女に配慮した視点」を理解し学ぶ機会を広げることが防災活動だけでなく地域活動全般でもまた求められています。

図3

どうすれば、男女両方の意見やニーズが反映された避難所生活になると思いますか。
(いくつでも) ※女性の回答数の多い順(抜粋)

出典:令和5年度「男女共同参画の視点からの防災に関する調査」(大阪市)

男女共同参画で地域防災を考える場を

 さらに調査結果では、男性リーダーと男性参加者の増加を求める割合も確認できました。全体で女性リーダーの増加を求める比率が25%に対して男性リーダーの増加を求めるのは9%です。女性参加者の増加を求めるのは約30%、男性参加者の増加を求めるのは16%と差はあります。しかし全体の1割ほどが男性リーダーや参加者の増加を求めています。これは避難所において市民ニーズを反映させるためには、防災と地域活動をどちらか一方の性別の人に任せるのではなく、男性、女性ともに関わるほうが意見を反映できるという考えの現れかもしれません。
 地域に住む高齢者や子育て世代のニーズ、障がいや持病を抱える人の困りごとなどを把握し、安全・安心な地域づくりを進めていくためには、みんなで考える場が求められます。地域内の団体、例えば女性や子育てサークル、障がい者などの当事者、さらに事情をよく知る支援者のひとびとです。さまざまな意見を聞きながら、誰もが声をあげやすい場をつくるためにも、地域にも防災にも男女共同参画の理念を浸透させる必要があるといえます。

2024年1月号 コンテンツ

P.2-4

P.5

P.6

P.7

P.8-9

P.10-11

表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
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