女性活躍推進法が成立してから今年で10年を迎えます。この法律は、働くことを希望する女性の活躍を後押しすることを目的に、平成27(2015)年に制定されました。この10年間の成果と今後の展望について、厚生労働省大阪労働局雇用環境・均等部長の大髙さんと大阪市市民局女性活躍推進担当部長の西山さんにお話を伺いました。
服部 まずはお二人から自己紹介とあわせて、女性活躍についてコメントをお願いします。
大髙 私は労働局雇用環境・均等部で、女性の活躍推進、仕事と家庭の両立支援、働き方改革の推進などの施策を総合的に行っています。働くことを希望するすべての人が能力を発揮できる社会をつくるという思いで、女性活躍推進に取り組んでいます。大阪においても、中小企業を中心に人手不足が深刻な中、多様な人材が活躍できる職場づくりは益々重要になり、女性の活躍推進に取り組むことは、人材確保の切り札ともいえます。本日は、早くから女性活躍推進に取り組んでこられた大阪市の西山さんとの対談を楽しみにしていました。
西山 私は大阪市の女性活躍推進や男女共同参画社会の実現にかかる施策を担当しています。男女共同参画の歴史を振り返ると、ジェンダー平等や人権擁護の視点からはじまり、少子化の急速な進展による労働力不足の懸念もあり、女性が社会で活躍する重要性への注目が高まってきたように思います。今回は同じ取組を進める労働局の大髙さんとお話できる機会をいただき、大変嬉しく思っています。
服部 では、女性活躍推進法のポイントをお聞かせください。
大髙 働く女性をめぐる法律といえば、昭和60(1985)年に成立した男女雇用機会均等法があります。これは、職場における性別による差別を禁止することで、雇用の場における男女均等な取扱いの実現をめざした法律です。一方、平成27(2015)年に制定された女性活躍推進法は、企業に自社の女性活躍に関する行動計画の策定や取組の実施を促すことで、働くことを希望する女性がその能力を発揮できる社会の実現をめざした法律です。企業によって女性活躍における課題や状況は様々であることから、個々の実情に応じたPDCAサイクルを実施し、企業に自主的な取組を促す内容となっている点がポイントだと思います。また、女性の活躍推進の取組状況が優良な企業に対する厚生労働大臣の認定制度があることもポイントではないでしょうか。認定企業は、認定マーク(「えるぼし」、「プラチナえるぼし」)を商品や広告に付すことで、対外的に「女性活躍が進んだ企業」であることをPRし、企業イメージの向上や優秀な人材の確保につなげています。
服部 認定制度は、女性はもちろん男性も働きやすい職場を実現している企業の指標になりますね。
大髙 「えるぼし」認定は、右肩上がりで上昇しています。全国で約3,000社、そのうち、大阪府では約200社です。「えるぼし」認定企業のうち、さらに高い水準を満たした企業を認定する「プラチナえるぼし」認定企業数は全国68社、大阪府では4社になりました。(*1)女性の活躍推進企業データベース(★1)で認定企業を紹介しているので関心のある企業や就職先を探す求職者の方々に利用してほしいですね。
西山 大阪市でも、女性活躍推進法の制定に先駆け、平成26(2014)年から社会全体の機運を高めることを目的に、会社や法人などの企業等を対象とする女性活躍リーディングカンパニー認証制度(★2)を実施しています。また、特に優れた取組をしている企業に対して市長表彰も行っています。企業が女性活躍推進に取り組むメリットやロールモデルを伝えていくことは、組織変革の機運が高まり、女性の活躍を推進する意義を広く認識してもらうという点でもとても効果的です。
服部 これら国や大阪市の認定制度は、それぞれのマークや認定企業リストを就職活動中の学生が男女ともにチェックしていると聞きます。若い世代の方も活用していることは嬉しいですね。
西山 若い方が、企業等の女性活躍推進や、ワーク・ライフ・バランスの取組を意識しているということは、企業にとっても行動を促す要因になると考えます。
服部 女性活躍推進法だけでなく、次世代育成支援対策推進法(*2)のアプローチも欠かせないといえますね。
西山 そうですね。両法の相乗効果でいっそう進んできたと思います。例えば、男性の育児休業取得率も高くなってきました。ただ、まだ低く、取得期間も短いです。女性の就業率は年々高くなっていますが、出産や育児というライフイベントに伴い、非正規雇用に移行しているというL字カーブ(*3)の課題もあります。男性の育児休業取得が、いわゆる「とるだけ育休」になっていないか、という懸念もあります。大阪市では、家事・育児の理想的な役割分担についてパートナーと話し合うツールとして「家事・育児シェアチェックシート」(★3)を作成しています。またクレオ大阪では、プレパパ講座をはじめとした、男性の家事・育児参画を応援する様々なセミナーも行っているので、ぜひ利用していただきたいです。
大髙 先ほど服部さんから次世代育成支援対策推進法のお話が出ましたが、政府は民間企業における男性の育児休業取得率について令和7(2025)年までに30%、令和12(2030)年までに85%という目標を掲げて取組を進めています。本年4月より改正次世代育成支援対策推進法が施行され、各企業が策定する行動計画に、男性の育児休業取得状況等に係る数値目標を盛り込むことが必要となりました。これまで男性社員のことは念頭になかったという事業主の方もPDCAサイクルを実施しながら、男女ともに仕事と家庭の両立ができるよう支援していただきたいと思います。
服部 女性活躍推進法は10年の時限立法として成立しましたが、さらに10年延長する改正案が国会で審議されます。次に向けて新しいアプローチはどのようなことがあるでしょうか。
大髙 令和4(2022)年に行われた省令改正では、指標として労働者数301人以上の企業を対象に男女の賃金差異の公表が義務づけられました。今回の改正案では対象企業が101人以上の企業に拡大されています。男女の賃金差異が発生する要因には、女性の平均勤続年数が短いことや女性管理職割合の低さなどが挙げられます。残業や急な休日出勤を前提とした会社では育児と両立して働き続けることは難しいですし、女性は管理職に就くために必要な職務の経験を積んでいないケースもあります。指標の大小それ自体に着目するのではなく、しっかりと要因分析を行い、自社の状況に合った改善策を講じることが重要です。
西山 男性の働き方の行動変革が今後10年の鍵の一つと感じています。「もっと育児や家事に関わりたい」と思う男性も増えている中で、「男性は仕事」といった固定的な性別役割分担意識や性別による無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)により、家事や育児参画への想いに蓋をしてしまっていることもあるのではないでしょうか。女性の活躍を推進することは、女性のためだけでなく、男性にとっても、企業にとっても重要で、積極的に取り組むメリットの大きさをもっと知っていただく必要があると思っています。
服部 女性活躍推進法は、企業の働き方を変える画期的な内容であることがよくわかりました。企業の実情に応じた女性活躍の実現をめざしたものなのですね。また大阪の企業や市民への施策も多角的に連携していることに頼もしさを感じました。それでは最後に女性活躍の展望についてのお考えをお聞かせください。
西山 女性活躍や男女共同参画の推進は、地域力の向上、社会経済活動の活性化など、様々な社会課題を解決する一翼をも担っています。国、府を含め、関係機関、団体、経済界、市民の皆様と連携しながら、持続可能なまちの発展を支える、大都市ならではの女性活躍推進モデルを大阪からさらに発信できればと思います。
大髙 女性の管理職割合の向上や勤続年数の伸長といった成果を得るためには、時間がかかります。ですが、分析結果をもとに行動計画を立ててPDCAサイクルを着実に進めることが全社員の働きやすさにつながると思います。大阪労働局では大阪市とも連携し、様々な企業支援に力を入れています。こうした個々の企業の取組が社会全体の変化につながっていくことを期待しています。
服部 本日はありがとうございました。
*1 「えるぼし」、「プラチナえるぼし」の認定件数は令和6(2024)年9月末時点、大阪府内の「プラチナえるぼし」の認定件数は令和7(2025)年3月末時点の件数。
*2 次世代育成支援対策推進法:次代の社会を担う子どもが健全に育成される環境を整備するため、平成15(2003)年に成立した法律。10年間の時限立法であったが、法改正により現在は令和17(2035)年まで延長される。
*3 L字カーブ:女性の正規雇用比率を年齢階層別に線グラフで示したとき、20代後半をピークに、その後は右肩下がりで低下していく現象のこと
(大阪労働局雇用環境・均等部長)
平成4(1992)年、労働省(現・厚生労働省)に入省。男女雇用機会均等法やパート・有期雇用労働法等の施行業務に従事。内閣府男女共同参画局、石川労働局、埼玉労働局等を経て、令和7(2025)年4月より現職。
(大阪市市民局女性活躍推進担当部長)
昭和63(1988)年に大阪市役所に入庁し、社会福祉基礎構造改革に伴う社会システムの構築や、「地域福祉計画」「総合計画」「次世代育成支援行動計画」等の各種計画策定、塾代助成事業の立ち上げ等に従事。令和5(2023)年4月より現職。
発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
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