濱田 智崇さん

京都橘大学総合心理学部准教授、臨床心理士・公認心理師。
平成7(1995)年、日本初の男性相談『男』悩みのホットラインを開設し、各地の自治体での男性相談事業にも携わる。平成23(2011)年~男性専用のカウンセリングオフィス天満橋代表。平成31(2019)年~一般社団法人日本男性相談フォーラム理事。主著書「男性は何をどう悩むのか-男性専用相談窓口から見る心理と支援」(平成30(2018)年/ミネルヴァ書房)

男性の価値観のばらつき?

 相談やグループワークの場で男性からお話を伺っていると、男性同士であっても価値観の違いが大きくなっている状況が透けて見えることがあります。たとえば、子育て中の父親が語り合うグループでは、長期の育児休業を取った方から「職場で闘う鋼の心が必要だった」「周りの声には耳を塞いで自分を貫いた」といった本音が語られることが少なくありません。法的整備が進んだとはいえ実際には、育児に積極的にかかわろうとする男性と、それを必ずしも肯定できない男性の両方が存在するのだと思われます。もちろん、人員不足など現実的な要因もあるのでしょうが、すべての男性の価値観が「男女共同参画」の方向へ変化しているわけではなさそうです。

 内閣府の「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」によれば、「男性は出産休暇/育児休業を取るべきではない」「仕事より育児を優先する男性は仕事へのやる気が低い」と考えるのは、女性よりも男性の方が多く、しかも若い世代の方がそう考える人の割合が高くなっています。多数派とは言えませんが、20代男性では約2割の人がそう考えています。女性より男性の方が年代による価値観の個人差が大きくなっているといえるでしょう。

女性活躍は女性が頑張ればよい?

 男女共同参画について、男性に関心を持ってもらうにはどうすればよいか、といったことを、男女共同参画センターの担当者などから、しばしば相談されます。確かに、男性のみ対象のセミナーは、参加者集めに苦労されていますし、男性に関する内容であっても、女性も参加OKの場合は、参加者は女性が多くなります。やはり「男女共同参画」について、自分事としてとらえていない男性も多そうです。「男女共同参画センター」は女性のためのものだと思われている節がありそうですし、「女性活躍? 女性が頑張ったらよろしいやん?」などと言われてしまうこともあるかもしれません。

  「女性活躍」実現のために必要なのは、従来の男性優位社会の構造や価値観をそのまま残し、そこに進出する女性を養成するようなことではないはずです。男性が自ら、従来の構造や価値観を変えていくことが重要なはずですが、男性はまだまだそうした自覚を持ちにくいのが現状だと思います。

男性が「変わる」ために

 しかしながら、長年、男性優位社会の価値観を刷り込まれてきた男性が、その意識を変えるのは、簡単なことではありません。「変わりなさい」と周りからプレッシャーをかけるのではなく、「変えるのは難しい」ことそのものを認めるところから始めて、男性にも「変わるメリット」を実感してもらい、自分事として取り組めることをめざすプロセスが必要ではないでしょうか。たとえば、男性の労働時間を減らして、その分女性に働いてもらえれば、男性のワーク・ライフ・バランスに対してもメリットは大きいはずです。

 何事も、変化が起きるときは、変化後の状況がわからないために、どうしても人間のこころには不安がつきものです。しかし、これまで当たり前で、手放すことが難しいように感じていたことも、手放してみたら意外に大丈夫だった、といったことはよくあります。われわれ相談に携わる者にできることとして、男性の不安を受け止め、変化へ踏み出す勇気を持っていただけるようなサポートができれば、と思っています。

2025年6月号 コンテンツ

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表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
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