ILO190号条約と2020年度
大阪市ハラスメント調査結果

クレオ大阪中央研究室長 服部 良子
(専門分野:社会政策、ワーク・ライフ・バランス問題)

仕事の世界における暴力とハラスメント

 ILO(国際労働機関)創立から100年目の2019年に、仕事の世界における暴力・ハラスメントの撤廃をめざす条約(ILO190号)が採択されました。仕事の世界における暴力とハラスメントは人権侵害であり、働く機会の均等を脅かし、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)を損います。  ハラスメントによる人権侵害は身体的な暴力だけではありません。無視や言葉による虐待など心理的なストレスを与えるという嫌がらせ、もちろんセクシュアル・ハラスメント(以下セクハラ)、パワーハラスメント(以下パワハラ)やストーカー行為も含まれます。条文には、「ジェンダーに基づく暴力」(第1条)や「女性労働者および仕事の世界における暴力」(第6条)と、ジェンダーや女性に向けられるハラスメントについて明記されています。

企業に義務づけられたパワハラ防止の対応

 日本はILO190号条約に批准はしていませんが、2020年にはパワハラに代表される多様なハラスメントに対応できる「仕事の世界の暴力及びハラスメントの撤廃」に関する国内法(パワハラ防止法)が成立し、パワハラ防止のための対応が企業に義務づけられました。同年6月にはまず従業員300人以上の企業、2022年4月からは中小企業がその対象となります。  企業に求められるのは、①パワハラ防止の社内方針の明確化、②その周知・啓発を行う、③パワハラに関連する苦情等に対する相談体制の整備、そして、④労働者の被害が生ずることがあれば、労働者へのケアや再発防止の義務付け、です。  罰則規定はありません。ただ、罰則にかわる対応としてパワハラが常態化して改善が見られない企業については、企業名が公表されることが決定しています。

調査結果から見えてくるハラスメント発生の現実

 では、パワハラをはじめとするハラスメントは今どのような実態でしょうか。2020年大阪市が行ったハラスメント調査結果からその実態を見てみましょう。調査では身体的なものからそれ以外の形も含めた多様なタイプのパワハラに加えて、セクハラ等、他のハラスメントも合わせて調査対象としています。  調査のデータ(下図)によると仕事においてハラスメントを受けたことがある人は5人に1人です。男性が女性より少し多くなっています。職場でハラスメントを見たり聞いたりしたことがある人も男性の比率が高く4人に1人です。そして、ハラスメントをしたことがある(したとみなされた)人は10人に1人以下です。  この調査結果は、仕事の世界のハラスメントは滅多に起こらないことではなく、むしろ誰もが直面する可能性が十分にあることをはっきりと示しています。ただ、厚労省(2016年)のパワハラ調査では、3人に1人であることと比べると大阪の結果は低いといえます。  調査することによって、ハラスメント発生の現実を私たちは知ることができます。どれくらいの頻度で遭遇するのか、そのデータを知らないと「そんなこともある」とか「運が悪い」あるいは「自分の落ち度が原因である」等と放置し解決をあきらめがちです。しかし、ハラスメントが何かを知ったら、その原因を明らかにして解決の道筋を求めることができます。  2019年ILO190号条約によって、どのような働き方をしていても「誰一人取り残さない」という包摂性の理念のもと、私たちは仕事の世界でもエンパワメントへ、さらに一歩踏み出したと言えます。

2021年2月号 コンテンツ

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裏表紙

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表紙

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