男性相談の視点から考える最近のDV事情

濱田 智崇さん

京都橘大学総合心理学部准教授、
臨床心理士・公認心理師。

平成7(1995)年、日本初の男性相談『男』悩みのホットラインを開設し、各地自治体の男性相談事業にも携わる。平成23(2011)年~男性専用のカウンセリングオフィス天満橋代表。平成31(2019)年~一般社団法人日本男性相談フォーラム理事。内閣府「DV相談+(プラス)事業における相談支援の分析に係る調査研究事業」検討会委員。主著書「男性は何をどう悩むのか-男性専用相談窓口から見る心理と支援」(平成30(2018)年/ミネルヴァ書房)

DV法の改正と加害者

 令和6(2024)年4月に施行された配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律(改正DV法)で、保護命令の申立てができる被害者に「自由、名誉、財産に対する脅迫を受けた者」が追加され、命令の発令要件も「生命・心身(※従来は身体)に対する重大な危害を受けるおそれが大きいとき」と拡大されました。つまり、精神的DVの違法性が明示されたのです。

  DVと言うと目に見えやすい身体的暴力をイメージしがちですが、内閣府の相談窓口「DV相談プラス」においても、精神的DVの相談がもっとも多くなっています(図1)。身体的暴力のケースであっても、多くはその前提として、精神的な支配により抵抗できなくされてしまっている状況があるという点は、支援者の間でも注目されているところです。

  加害男性からの相談を受けていると「殴っていないから暴力ではない」と主張する人にしばしば出会います。一方で、「パートナーに指摘されてはいないが、自分の発言はDVに当たるのではないか」等、自ら気づいて相談してくる方もいます。改正DV法の施行を機に今後、精神的DVについての社会的理解の促進や、パートナーとの対等なコミュニケーションに関する啓発をさらに進めることが、DV根絶への道筋になると考えています。

声を挙げ始めた男性被害者

 男性からのDV被害相談は、10年ほど前から少しずつ受けてきましたが、コロナ禍以降、目立って増えていると感じます。DV相談プラスでも、相談者のうち男性は、令和3年度9.4%→令和4年度11.5%(図2)と増加傾向にあります。さらに、男性相談者のうち既婚者の割合が、令和3年度46.8%→令和4年度60.2%(図3)と増えています。

  相談内容も含め分析してみると、DV相談プラスを開設した令和2(2020)年当初、未婚男性は、交際相手からのデートDV以外に「親や兄弟からの暴力」を「DV」と誤認して相談してくる方が、それなりの割合で存在していました。そこから徐々に、配偶者から受ける暴力の相談が増えている状況が読み取れます。男性もDV被害に遭うのだ、それを相談しても良いのだ、という社会的な認識が広まりつつあると考えられます。

  男性には自分の被害を認めにくい傾向があります。「強くあるべき」という男らしさの縛りが強い人にとって、自分が被害者になっていても、その事実と向き合うことに大きな心理的抵抗があるのです。被害状況を過小評価し続けて、その間に暴力がエスカレートしていくケースもあります。男性にも、精神的DVが暴力であり自らも被害者になり得る、という認識を持っていただく必要があると思います。

図2・3出展:令和5年度DV相談プラス事業における相談支援の分析に係る調査研究事業報告書より作成
参考文献:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律(令和5年法律第30号)(概要)

2024年10月号 コンテンツ

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表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
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