コラム

男性のワーク・ライフ・バランスの意義

多賀 太さん

関西大学文学部教授。教育社会学、家族社会学、ジェンダー学専門。一般社団法人ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン共同代表。NPO法人デートDV防止全国ネットワーク理事。主な著書に『ジェンダーで読み解く男性の働き方・暮らし方 ワーク・ライフ・バランスと持続可能な社会の発展のために』(令和4(2022)年/時事通信出版局)。

女性の経済的自立と活躍の後押し

 日本社会は、男性が長時間働いて家族を養うお金を稼ぎ、女性は男性に経済的に依存しながら家事・育児などの家庭責任を果たすという「男性稼ぎ手」規範がいまだに根強い社会です。昭和61(1986)年に男女雇用機会均等法が施行されて以来、女性が男性と対等に活躍する機会は徐々に広がってはいるものの、いまだに日本の女性管理職の割合は、諸外国に比べて極端に低いままです。
 その大きな理由の1つが、キャリアアップのためには家庭責任との両立が不可能なくらいの長時間労働が求められる稼ぎ手男性中心の働き方の問題。もう1つが、男性の家事・育児参加が少なく、女性に家庭責任負担が大きく偏っているという問題です。
 これらの問題を解消する鍵が、男性のワーク・ライフ・バランスを可能にする働き方への改革です。男性が仕事中心の生活から結婚後も仕事と家事・育児を両立させる生活へと変われば、妻の家庭責任を軽減し、既婚女性の職業労働を通した経済的自立や活躍を家庭生活の面から支えることができます。また、管理職も含めた男性従業員が家庭責任を果たしながらいきいきと働く姿を見せることで、結婚や出産を望む女性たちも安心してキャリアアップをめざしやすくなります。

図1 諸外国の就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合

(備考)
1.総務省「労働力調査(基本集計)」(令和4(2022)年)、その他の国はILO“ILOSTAT”より作成。
2.日本、米国は令和4(2022)年、オーストラリア、マレーシアは令和2(2020)年、英国は令和元(2019)年、その他の国は令和3(2021)年の値。
3.総務省「労働力調査」では、「管理的職業従事者」とは、就業者のうち、会社役員、企業の課長相当職以上、管理的公務員等。また、「管理的職業従事者」 の定義は国によって異なる。

出典:令和5年版男女共同参画白書(内閣府)

男性の稼ぎ手責任の重圧からの解放

 「男性稼ぎ手」社会は、男性たちに仕事での成功や安定した収入といった理想的な男性像の達成を期待しますが、すべての男性がそうした理想を実現できるわけではなく、そのことに苦しんでいる男性も少なくありません。例えば、女性では、就業形態による婚姻率の違いがほとんど見られないのに、男性では、正規雇用に比べてそれ以外の就業形態の人の婚姻率はかなり低い傾向が見られます。
  また、稼ぎ手役割を果たせている男性の多くも、それと引き換えに望まない長時間労働を強いられ、育児や私生活にもっと時間を割きたくてもそれがかなわない状況に置かれています。さらに、男性では、生活習慣病のリスクが働き盛りの50代でピークを迎え、退職者が増える60代になると低下するというデータからも、仕事の負荷が男性の健康を蝕んでいることが推測されます。男性が仕事に極端に偏らないワーク・ライフ・バランスの取れた生活を送れる社会の実現は、女性のキャリアアップの支えになるだけでなく、男性を稼ぎ手責任の重圧から解放し、健康と生活の質を高める鍵の1つでもあるのです。ワーク・ライフ・バランス社会の実現に向けて、私たち一人ひとりが、できることから始めていければと思います。

図2 男性の従業上の地位・雇用形態別有配偶率

資料:総務省「平成29年就業構造基本調査」を基に作成。 注:数値は、未婚でない者の割合。
出典:令和4年版少子化社会対策白書(内閣府)

2024年5月号 コンテンツ

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表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
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