女子スポーツからみる女性活躍

女子サッカーを通じて女性のエンパワメント(※1)
社会の変革を

 今年、フランスのパリで2024年パリオリンピック(7月26日~8月11日)、2024年パリパラリンピック(8月28日~9月8日)が開催されます。日本代表として出場が決定している競技の中から、女子サッカーにフォーカスしてインタビューを行いました。

©WE LEAGUE

髙田 春奈(たかた はるな)さん

公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ※2)理事長。
昭和52(1977)年5月17日生まれ、長崎県佐世保市出身。国際基督教大学を卒業後、ソニー入社。秘書、人事を経て、平成17(2005)年独立。平成30(2018)年JクラブのV・ファーレン長崎の上席執行役員に就任。令和2(2020)年同クラブの代表取締役社長就任。一貫して人とメディアに関わる仕事に携わる傍ら、現在も東京大学大学院教育学研究科博士課程に在籍し、教育思想の研究を継続している。令和4(2022)年3月Jリーグ常勤理事、JFA理事に就任。Jリーグでは主に社会連携を担当した。同年9月にWEリーグ2代目チェアに就任。なでしこリーグ理事長、Jリーグ特任理事とJFA常務理事も務める。

女性プロアスリートとして仕事を続けていくために

 WEリーグは、令和元(2019)年に日本初のプロサッカーリーグとして発足しました。プロサッカー選手という職業を確立するためにはサッカーだけでもきちんと生活していける環境を整えることが重要です。WEリーグでは、発足時から最低年俸を270万円と定めた上で、選手たちが安心して競技に打ちこめるようにしています。「稼げるリーグ」にしていくことが、リーグ自体の強さにも繋がるとともに、課題でもあります。

 「Women Empowerment League」として、選手だけでなく審判や実況、経営者などといった職業でも、もっと女性が活躍できるようにしていきたいという思いがあります。そのため、「職員の半数以上を女性とすること」、「クラブ内で意思決定権をもつ人のうち、少なくとも1人は女性とすること」を各クラブの参入基準に入れています。また、各スタジアムで託児施設の設置を義務化しています。

 もちろん育児は女性だけのものではないですし、気軽に子どもとスタジアムに来場し、試合を楽しんでいただくことを含めて、男女共にサッカーを楽しんでいただく環境づくりに力を入れています。

サッカー界からの、女性たちのアクション

 3月8日は国際女性デーですが、日本サッカー協会(JFA)でもこの日を「JFA女子サッカーデー」として定めています。JリーグやWEリーグ、都道府県サッカー協会など組織や性別、年齢と関係なくサッカー界全体として女子スポーツの現状や課題、今後の発展について考える取組を行っています。また、「WE ACTION MEETING」として、リーグやクラブのメンバーだけでなく、パートナー企業やメディアの皆さんなど様々な人たちで集まって、ジェンダー課題について話し合う場を設けています。例えば、現状の課題として、活動はしたいけれど女子だけのチームがないなどの理由から「女性は10代でスポーツやめちゃう問題」などがありますが、それらについて改めて考える場にもなっています。

 今、世界で女子サッカーの人気が高まっていて、アメリカでは選手たちが賃金のジェンダー格差の解消を訴えて同一賃金を勝ち取るなど、ひとつの社会的なアイコンになっています。女子サッカーから「かっこ良い女性」がどんどん活躍していくことによって、同じ女性が勇気をもらったり、男女問わずみんなから愛されるスポーツを通して社会が変わっていくのでは、という可能性を感じています。

 WEリーグができ、日本の女子サッカーのレベルは明らかに向上したといわれています。昨年のFIFA※3女子ワールドカップでも、「なでしこジャパン」の選手たちの半分以上はWEリーグの選手たちでした。海外チーム所属の選手も多い男子リーグに比べて、国内リーグの層が厚いのが日本の女子サッカーの特徴です。WEリーグがあることによって、優秀な選手が輩出でき、女子サッカーを通して女性のエンパワメントにつながっています。

WEリーグ公式マスコット・「ウィーナ」 ©WE LEAGUE

パリオリンピックへの期待

 平成23(2011)年のFIFA 女子ワールドカップ優勝で「なでしこジャパン」の存在が広く知られ、「日本の女子サッカーは強い」というイメージが定着しました。平成24(2012)年に開催されたロンドンオリンピックでは銀メダルを獲りましたが、ワールドカップでの金メダルのインパクトが強く、「惜しかった」という声もあります。令和3(2021)年に開催された東京オリンピックではベスト8という結果を残しましたが、やはりオリンピックだけで考えると金メダルという結果が残せていません。是非今回はワールドカップ優勝時のようなムーブメントが起きて、女子サッカーの人気と選手たちの活躍推進につながってほしいと思っています。

※1 エンパワメント…エンパワー(empower)の名詞形で、力や権限を与えること。本来持っている力を発揮し、自らの意思決定により自発的に行動できるようにすることを意味する。
※2 WEリーグ…Women Empowerment League。日本に“女子プロサッカー選手”という職業が確立され、リーグを核に関わるわたしたちみんな(WE)が主人公として活躍する社会を目ざす、という思いが込められている。
※3 FIFA…Fédération internationale de football association(フランス語)の略称。国際サッカー連盟。

広がる可能性と夢の実現に向けて

©WE LEAGUE

海堀(かいほり) あゆみさん

WEリーグコミュニティオーガナイザー、元サッカー日本女子代表GK※1
京都府長岡京市出身。小学2年生からサッカーを始める。平成20(2008)年にINAC神戸レオネッサに入団し、なでしこジャパン(日本女子代表)に初選出されると、同年の北京オリンピックで4位。平成23(2011)年、FIFA 女子ワールドカップドイツで初優勝を飾り、決勝戦のMVPならびに大会優秀選手に選出。平成24(2012)年ロンドンオリンピック準優勝、平成27(2015)年 FIFA女子ワールドカップカナダ準優勝。同年に引退するまで、国内リーグ200試合以上、国際Aマッチ53試合に出場。平成29(2017)~平成30(2018)年、熊本ルネサンスフットボールクラブコーチ兼選手を経て、令和3(2021)年11月から現職。

 平成23(2011)年のFIFA 女子ワールドカップは、女子サッカー界にとって大きな分岐点になりました。東日本大震災の直後に大会が開催され、参加した選手たちはそれぞれに、自分に何ができるのか模索していました。「自分にはサッカーしかない、できることをやろう」と、当時は目の前のことにとにかく必死でした。大会を終え帰国後、これまでほとんど知られていなかった女子サッカーに注目が集まり、大きなことを成し遂げたのだとはじめて実感したのを覚えています。なでしこジャパンという名前が広く知られ、女子サッカーの認知度が高まったことは本当に嬉しく思いました。

 平成27(2015)年に現役を引退、翌年に大学へ入学し、指導者をめざして様々な角度からスポーツを学びました。また各地でサッカーの普及活動やスポーツを通じた地域活性にも携わっています。人との出会いや経験を重ねる中で、スポーツの新たな可能性に気づくことができ、キャリアの幅も広がったと思います。
令和3(2021)年にはWEリーグが立ち上がり、これまでプロ選手になりたくてもなれなかった女子選手にとって、夢の可能性が大きく広がりました。「女の子がサッカーするなんて」と言われていた時代もありましたが、今は、女の子も将来の夢は「プロサッカー選手」と掲げることができるのです。

 現在はWEリーグで、女子サッカーの魅力を伝えるために様々な企画や広報活動に取組んでいます。WEリーグのクレド(行動規範)の中には「みんなが主人公、わくわくする未来」という言葉が入っています。サッカーに限らず、誰もがやりがいを見つけられ、それを周りがサポートする社会になってほしいです。性別に関係なく、自分らしく自信をもって生きられる社会になり、ゆくゆくは「女性活躍」という言葉を使わなくなるような、そんな社会の実現を願っています。

 今後は女子サッカーに関わってくれた人たちが笑顔になれるよう、そして誰かの挑戦を後押しできるよう、WEリーグを更に盛り上げていきたいと思っています。女子サッカーには魅力的な選手がたくさんいます。ぜひスタジアムに足を運んで試合を楽しんでください!

 

サッカー教室で子どもたちに指導する海堀さん ©WE LEAGUE

INTERVIEW

セレッソ大阪ヤンマーレディースで活躍する、福永絵梨香(ふくながえりか)選手(GK)と荻久保優里(おぎくぼゆうり)選手(DF)※2にお話をうかがいました。

左:荻久保選手 右:福永選手

ーー近年の女子サッカーの盛り上がりはいかがですか。
荻久保さん プロのリーグで戦うことで、今まで以上に歓声が大きくなったと感じます。アマチュアの時は公開練習もなく、サポーターの方と関わる機会も少なかったのですが、今は、試合を重ねるごとに練習を観にきてくださる方が増え、応援されていると実感することが多くなりました。

ーースポーツのジェンダー課題のひとつとして、女性は10代でスポーツを辞めてしまう選手が多いことがありますが、どう思われますか。
福永さん
 中学になると男女で体格差が出てくるので、男子の中でプレーすることが難しくなってしまいます。女子チームが少なく、続けたくても環境がない、ということがやめてしまう要因のひとつだと思います。

荻久保さん 私は兄の影響でサッカーを始め、中学の時に女子チームに入ることができました。環境に恵まれたこと、周りの理解、そして先輩たちが築いてこられた女子サッカーの歴史があるからこそ続けることができています。

ーーWEリーグでは、選手に向けた様々な研修があるとお聞きしました。これまで、どんな研修に参加されましたか。
福永さん
 先日、「生理×スポーツ」というテーマの研修を受けました。身体の変化や向き合い方、ピルの使用についてなど、女性アスリートとしてプレーし続けていくために、必要な情報をたくさん知る機会になりました。研修の場を作って、サポートしてくれることはとてもありがたいですね。

ーー福永さんは、平成28(2016)年の情報誌クレオ(夏号)でも取材させていただきました。その後、変化はありましたか。
福永さん
 あの時はまだ10代でしたね(笑)。当時は、指導者になりたいというぼんやりとした目標でしたが、月日が経つにつれて、思い描く指導者像が明確になりました。現在はライセンスを取得し、プレイヤーと同時に、サッカー指導の勉強もしています。将来はゴールキーパーコーチになり、未来のサッカー選手を育成したいです。

ーー今後の展望について教えてください。
荻久保さん サッカーを沢山の人に知ってもらい、女子サッカーに関わる人やサポーターをもっと増やしていきたいです。そのためにも注目してもらえるよう、大会で結果を出していきたいですね。

 

ゴールを守る福永選手 ©CEREZO OSAKA
シュートする荻久保選手 ©CEREZO OSAKA

※1 GK…ゴールキーパー (唯一手を使うことが許されており、自陣ゴール前でゴールを守るポジション)
※2 DF…ディフェンダー (主にゴールキーパーの前で相手の攻撃を防ぐポジション)

2024年7月号 コンテンツ

P.2-3

P.4

P.5

P.6

P.7

P.8-9

P.10-11

表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団)
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