クレオ大阪中央研究室長 服部 良子(専門分野:社会政策、ワーク・ライフ・バランス問題)
21世紀になり、日本でも「ものづくり」を中核とする第二次産業からサービス業や情報通信業など第三次産業の領域へと経済活動は拡がりました。それとともに、働き方が変化し、男性だけでなく女性も働き手の大きな部分を占めつつあります。また、少子高齢化による労働力人口の減少が進んでいることからも、女性活躍や男性の育児参画をはじめ、従来の性別役割を問わない生活スタイルが求められているところです。とはいえ、昭和、平成の時代の日本社会では「男性が働き、女性が育児や家事をする」という性別役割分担に基づくスタイルが広く定着していました。そのため令和を生きる人々の記憶にも生活にも、今もあるのが男女の性別役割分担の意識といえます。そんな社会では、いわゆる「男性は仕事、女性は家庭」という固定的性別役割分担意識に関する調査データは、男女共同参画社会の実情をはかる「目盛り」の機能をはたしています。
国も大阪市も男女共同参画政策の普及とそれをめぐる社会の動向を確かめるために、定期的に男女の性別役割に関する意識を調査しています(図表1)。調査によれば、国も大阪市も性別役割を肯定するのは、女性より男性が多くなっています。
性別・年齢別に調査結果をみると、若い世代ほど、性別役割を「否定」し、年齢層が上がるほど「肯定」しているという傾向がみられます(図表2、3)。男女雇用機会均等法や育児介護休業法などの法整備により、働き方や育児をとりまく状況が改善されたことの効果が徐々にあらわれていると考えられるでしょう。この約30年間の制度整備は、人々の行動を変化させてきました。例えば、何度かの制度改正を重ねる中で、育児休業の取得率は確実に上昇しています。
ただし、若い世代で性別役割を「否定」する傾向があるとはいえ、大阪市の調査結果をみると、40代男性では、性別役割分担意識を「肯定」する割合が30代・50代と比べて多くなっていることがわかります。40代は、働き盛りといわれるように、働き手の中核であり、管理職となる場合が少なくありません。とりわけ既婚の場合は、子育てなど家族形成と維持の世代でもあります。しかし、40代男性は長時間労働の傾向があり仕事優先となりがちです。
また、両立支援の制度整備が推進されても、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)によって、「女性の」両立支援が優先され「男性の」両立支援は配慮されにくい傾向があります。育児をしようとする「男性の」育休取得などの両立支援に対して、職場も社会も理解はまだ十分とはいえません。
「男性の」両立支援が求められていることは、大阪市のこれまでのさまざまな調査でも示されてきました。大阪市の場合、男性40代は葛藤の中にいるともいえるでしょう。
ワーク・ライフ・バランスに関する政策は、子育て家族の男女を念頭においているため、単身者(シングル)は取り残されがちであることにも注意が必要です。職場で育休者がでても、職場環境によっては、必ずしも代替要員が配置されるとは限りません。そのため残された職場のメンバーは、育休取得者の調整要員の役割が求められ、負担が増えてしまうこともあります。育休中の人を支える環境が整っていないために、業務の負担が単身者をはじめ一部の人に偏ってしまうような職場では、現状に対する不満あるいは、一部の人に負担をかけてしまうことへの申し訳なさという気持ちから、性別役割を肯定してしまう可能性も否定できません。働き盛りといえる世代において性別役割を肯定する率が高い背景は、こうした葛藤の中にあるからかもしれません。
「男性は仕事、女性は家庭中心に」という性別役割を超えて、「男女の平等な活躍が可能な社会」を実現させるためには、すでにある制度が十分に運用されることに加え、あらゆる人にとって仕事の負担が過重にならない働き方の実現も欠かせないといえるでしょう。
発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館指定管理者:大阪市男女共同参画推進事業体 (代表者:(一財)大阪男女いきいき財団) クレオ大阪ホームページ