濱田 智崇さん

(京都橘大学総合心理学部准教授、臨床心理士・公認心理師)
平成7(1995)年、日本初の男性相談『男』悩みのホットラインを開設し、各地の自治体での男性相談事業にも携わる。平成23(2011)年~男性専用のカウンセリングオフィス天満橋代表。平成31(2019)年~一般社団法人日本男性相談フォーラム理事。主著書『男性は何をどう悩むのか-男性専用相談窓口から見る心理と支援』(平成30(2018)年 ミネルヴァ書房)

「チーム・パパカフェ」の活動

子育て中の男性臨床心理士3名で「チーム・パパカフェ」を名乗り、各地の男女共同参画センターや公民館、こども園などに呼んでいただいています。平成23(2011)年に大阪市内6区で実施したのが最初で、当時はまだ「パパカフェ」とは名乗っていませんでした(「子育てパパの語り場」)が、コンセプトは当初から変わっていません。何かプログラムを用意するといったことをあえてせず、子育て中の男性同士が語り合うことそのものに力点を置き、われわれ臨床心理士がファシリテーターになるものの、自らも当事者として語りに参加する、というのがこの会の特徴です。

実は、こうした活動に先立ってわれわれは、父親の心理的支援に関する研究の一環として、父親を対象とするインタビュー調査を行っていました(図1)。その際に、調査インタビューであっても「語ってみて良かった」と言っていただけることが多く、男性が自分の子育てを言語化・意識化するメリットを実感していたのです。アンケート調査でも、男性が知人と子育てについて話す機会は少ないことが示されていた(図2)ため、ぜひそうした機会を男性にも提供したいと考えて、活動を続けてきました。かつては、自分の意志ではなく、「妻が勝手に申し込んだので…」と参加する方も多かったのですが、近年は自ら語りたいと思って来てくださる方が増えました。特に、長期の育児休業を取得している最中の方が、同じ境遇の方との出会いを求めて参加するパターンが出てきたのが、最近の大きな変化です。

図1 「パパカフェ」の着想につながった甲南大学人間科学研究所の調査をもとに作成されたパンフレット

 

欧州のパパとの意識の差

甲南大学の中里英樹先生が、著書(※1)の中で、ドイツ・ベルリンでの現地調査の様子や、「父親センター」を開設したエバハート・シェーファー氏へのインタビュー内容について書いておられます。シェーファー氏とは私も男性相談をテーマとしたオンラインセミナーでご一緒したことがあるのですが、似たようなコンセプトの「パパ・カフェ」を開催しておられることに、驚きと嬉しさを感じました。ただ、ベルリンでは、常設の父親センターで週に1回パパ・カフェが開かれており、われわれの「呼ばれた場所で不定期開催」とは随分違います。ベルリンでは約半数の父親が平均4か月以上の育児休業を取得しますが、日本はようやく取得率3割に達したものの、そのうち4割の人が2週間未満の取得に留まっています。(※2)

以前に、ノルウェー出身で、ノルウェーと日本の両方で子育て経験のある男性、ヴォーゲ・ヨーラン氏とトークイベントにて対談したことがあります。父親に少なくとも15週間の育児休業が割り当てられており、9割の人が取得するというノルウェーの男性からは、男女共同参画についてさまざまなお話を伺えると私も参加者も期待して臨んだのです。ところが、登壇したヴォーゲ・ヨーラン氏は、おむつ替え台のあるトイレなどの設備面で、日本の子育てのしやすさを絶賛。男女共同参画の話には、あまりピンと来ていないご様子でした。「それが当たり前」の社会にいるとわざわざその問題について意識することもなくなるのか!と、私は逆に愕然とした覚えがあります。

日本がノルウェー並みになる日は遠そうですが、日本の男性の意識の中にも「子育て」がもっと大きな位置を占めることをめざして、「チーム・パパカフェ」の活動を続けていきたいと考えています。

※1 中里英樹『男性育休の社会学』令和5(2023)年 さいはて社
※2 「令和5年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)より

2025年8月号 コンテンツ

P.2-3

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P.7

P.8-9

P.10-11

表紙

発行:大阪市市民局ダイバーシティ推進室男女共同参画課 編集:大阪市立男女共同参画センター中央館
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