クレオ大阪中央 研究室長

服部 良子

専門分野:社会政策、 ワーク・ライフ・バランス問題

男女間の賃金格差とL字カーブ

いまだ格差が大きい男女間の賃金

令和4(2022)年の女性活躍推進法関係規程が改正され、企業の男女間の賃金の差異が課題となり、常時雇用する労働者が301人以上の事業主を対象として、男女の賃金の差異の情報公表が義務づけられました。具体的には、男性の給与水準を100とした場合に女性の給与水準を数字で示すこととしています。男性一般労働者を100とした場合の女性一般労働者の給与水準は、令和6(2024)年で75.8でした(図1)。つまり、女性の給与水準は男性の4分の3ということになります。別の調査で諸外国と比較すると、OECD(※1)での平均が88.7であるのに対し、日本は78.0と日本での男女間の差が大きいことがわかります(図2)

昭和60(1985)年に男女雇用機会均等法が成立して以来、女性と男性が同じ職場、同じ仕事をするように社会が変化しつつありますが、こうした働きに対して支払う額の格差は現在の日本の男女の働き方の違いが給与水準にあらわれているといえます。

※1 OECD…Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構。ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38か国の先進国が加盟する国際機関。

図1 男女間所定内給与格差の推移

図2 男女間賃金格差の国際比較

家事負担による働き方の違い

男女の働き方の大きな違いの一つは、正社員として働き続けるかどうかといえます。違いが生じる原因として考えられる一つとして、女性が出産・育児で就労を中断することが挙げられます。また、育児が一段落して再就職する場合、主婦となった女性はパートタイマーなど正社員ではない働き方を選択することもしています。

その理由の大きな部分は、家事・育児の担当が女性中心となっている社会や家庭の状況にあります。それは生活時間に関する調査結果にあらわれています(図3)。男性は仕事、女性は家庭という固定的な性別役割が続いていることが調査結果とともに、男女の賃金格差へ反映しているのです。家族の場での男女共同参画の在り方が、女性活躍に大きく作用しているのがこの男女間賃金格差といえるでしょう。

一般的に正社員でないことが多いパートタイマーの報酬は、働いた時間に対応します。必然的に短時間勤務で時間給のパートタイマーは、フルタイムの正社員より低い給与となります。つまり、正社員でない働き方に、女性「だけ」がライフステージの途中で転じることが、賃金格差を生じさせているわけです。

図3 6歳未満の子どもをもつ共働き世帯の家事関連時間(週全体平均)

L字カーブを描く女性の正社員比率

女性の働き方の特徴は、女性の年齢別の就業率の変化にもあらわれています。「正社員として働く女性」の割合は20歳代後半をピークとして、年齢があがるほど正社員として働く女性が減少しています。アルファベットの「L」を寝かせたような形状に見えることから、「L字カーブ」といわれています。これは、女性が結婚や出産を機に正規雇用から非正規雇用に移行する傾向を示しており、女性活躍推進における課題の一つとされています(図4)

これまでこのデータはあまり注目されてきませんでした。そのかわりしばしば紹介されてきたのは「M字カーブ」を描く「働く女性全体」の年齢階級別の就業率でした。2020年代、日本の「働く女性全体」のM字の「へこみ」は小さくなっていき、40歳代以降の働く女性比率も高くなりました。

しかし、こうしたM字カーブの解消傾向から、女性活躍が十分に推進された結果が出たと安心するにはまだ早いといえます。なぜなら働く女性が増えても、先進国としては男女間の賃金格差が大きな水準でとどまっているからです。

図4 女性の年齢階級別正規雇用比率(令和6(2024)年)

男女間賃金格差からみえる課題

男女間賃金格差はなぜ今問題なのでしょうか。理由はいくつか考えられます。まず、一つとしては社会全体の所得総額を減少させている点が考えられます。国民一人ひとりの所得の総計は、国全体の購買力を表しています。女性の賃金水準が低くとどまっていることは、経済規模の大きさにも響いてきます。女性の賃金があがり、家計に余裕ができれば、消費が増え、景気にもプラスになります。

 また、女性の賃金水準が低いことが、働く女性の意欲をそぐことにもつながる点も理由の一つといえます。そして、高齢社会と少子化の現在、男性だけでなく女性も税金や社会保険料を負担してほしいという社会保障財政面からの必然性もあります。

男性が女性とともにバランスよく仕事と家事・育児を行うことができることが当たり前となれば、女性も男性と同じように正社員として働き続ける生活が可能になります。そうすれば、男女間賃金格差の解消に向けた一歩となり、日本全体の経済的な規模の拡大が実現できると考えられるのです。

2025年8月号 コンテンツ

P.2-3

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P.8-9

P.10-11

表紙

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